第5章 タスク・シフト/シェアと業務の効率化
医師の労働時間を減らすには、医師にしかできない仕事に医師の時間を使い、それ以外を他の職種と分け合う必要があります。
国はこれを「タスク・シフト/シェア」と呼び、2021 年 9 月の通知で、今の法律の範囲で医師から移せる業務を職種ごとに示しました。
この章では、その通知の中身、進めるための 3 つの留意点、2 年たって病院がどこまで進めたかの数字、支援人材と特定行為研修、そして ICT と DX による業務の効率化を見ていきます。
2021 年の通知が示した「今の法律の範囲で移せる業務」
厚生労働省医政局長は、令和 3 年 9 月 30 日に「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」(医政発 0930 第 16 号)を各都道府県知事に出しました。
2024 年 4 月の医師の上限規制に向けて、法律を変えなくても移せる業務を早く進めるためです。
通知の本文と関係する法令は、いきいき働く医療機関サポート Web の法令と通知の一覧(厚生労働省)から読めます。
通知は 3 つの部分でできています。
1 は基本的な考え方で、医療安全の確保と、各職種の資格法が定める専門性を前提に、各職種が自らの能力を生かして能動的に対応できるようにする、としています。
2 は進めるときの留意点、3 は職種ごとの業務の具体例です。
具体例は 13 の見出しに分かれています。
- 看護師特定行為研修を修了した看護師による特定行為。
医師の事前の指示とプロトコールに基づく薬剤の投与、血液検査のオーダーと採血。
診察前の情報収集。通知 3 の 1) - 助産師助産師外来と院内助産。
正常な経過の妊産婦の健診と分娩の管理。通知 3 の 2) - 薬剤師プロトコールに沿った処方の変更(投与量、剤形など)。
薬物療法の説明。
病棟での薬剤管理と副作用の情報収集。通知 3 の 3) - 診療放射線技師医師の事前の指示に基づく撮影部位の確認と追加撮影のオーダー。
放射線管理区域内の患者の誘導。
検査の説明。通知 3 の 4) - 臨床検査技師病棟と外来での採血。
超音波検査などの所見を報告書に書き担当医に交付。
心臓カテーテル検査での検査と観察。通知 3 の 5) - 臨床工学技士人工心肺の血液や薬剤の投与量の設定と変更。
手術の清潔野で術者に器材を手渡す。通知 3 の 6) - 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士リハビリテーションの書類の作成と説明。
非侵襲的な検査の定型的な説明。通知 3 の 7)〜9) - 視能訓練士、義肢装具士、救急救命士それぞれの資格法の範囲の業務。
救急救命士は 2021 年の法改正で救急外来での処置が加わった。通知 3 の 10)〜12) - 職種を問わない業務医師事務作業補助者や看護補助者を含め、診断書の下書き、代行入力、患者の移送、物品の準備など。通知 3 の 13)
通知は末尾で、診療報酬の算定については従前どおり関係法令を確かめるように、と念を押しています。
移せる業務の範囲と、加算の要件は別の話です。
その後の疑問には、2024 年 6 月 14 日の事務連絡で Q&A が出ています(「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」等に関する Q&A(厚生労働省PDF)。
診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士の業務が中心です)。
進めるための 3 つの留意点
通知の 2 は、タスク・シフト/シェアを効果的に進めるために留意すべき事項を、「意識改革・啓発」「知識・技能の習得」「余力の確保」の 3 つの観点で整理しています。
意識については、個々のモチベーションや危機感が重要で、病院長などの管理者の意識改革に加え、医療従事者全体の意識改革に取り組むことが求められる、としています。
一部の職種だけ、あるいは管理者だけの意識改革では容易に進まない、とも書いています。
管理者向けのマネジメント研修、医師全体への説明会、各部門の責任者への研修、全職員の研修が例に挙がっています。
知識と技能については、受ける側の職種の不安を解消するために、新たに担当する業務に必要な知識と技能を習得する教育と研修が要る、としています。
余力については、受ける側の職種が人員の面で余裕を持てるようにすることです。
日本看護協会の 2025 年の調査でも、タスク・シフト/シェアを実施している病院の 75.7%、実施していない病院の 66.0% が、課題として「受ける側の医療関係職種の余力(人員確保等)」を挙げています(2025 年 病院看護実態調査(日本看護協会PDF))。
この 3 つは、医師の負担を減らす話であると同時に、受ける側の勤務環境の話でもあります。
医師の業務を看護師に移し、看護師の業務を看護補助者に移すとき、それぞれの職種に教育と人員の手当てがなければ、負担の場所が変わるだけになります。
通知は「医療安全の確保」を前提に置き、各職種の専門性を尊重した分担を求めています。
どこまで進んだか、数字で見る
厚生労働省は、特定労務管理対象機関(B 水準や C 水準の指定を受けた医療機関)が出した令和 6 年度の医師労働時間短縮計画から、タスク・シフト/シェアの実施割合を集計しています(医師の働き方改革に係る現状等(厚生労働省PDF)31 ページ)。
看護師による診察前の情報収集は 75.0%、静脈注射などの注射は 71.8% の施設で実施されています。
一方で、特定行為の実施は 46.6%、薬剤師によるプロトコールに沿った処方の変更は 61.6%、医師事務作業補助者による退院サマリーの作成は 52.0% と、業務によって差があります。
資料は「職種や内容によって実施割合にばらつきがある」と評しています。
病院全体の調査では、医師の負担軽減に向けた 30 の取組の実施率が、令和 4 年と令和 7 年で比べられています(同 33 ページ)。
実施率が高いのは、患者と家族への病状説明を診療時間内に限る 70.9%、医師が出席する会議を所定の就業時間内に開く 73.7%、採血や静脈注射やルート確保を原則として医師以外が行う 70.0% です。
これらは費用がかからない取組で、多くの病院がすでに行っています。
3 年で伸びが大きかったのは、勤務間インターバルの導入(32.4%、18.0 ポイント増)、時間外に特定の医師へ負担が集中しない体制(59.5%、10.2 ポイント増)、当直翌日の業務の軽減(44.8%、10.1 ポイント増)、複数主治医制の導入(33.1%、8.8 ポイント増)、特定行為研修を修了した看護師との分担(28.5%、8.8 ポイント増)です。
上限規制の施行が、勤務の組み方の見直しを後押ししたと読めます。
反対に、院内保育所の設置は 41.9% で 4.5 ポイント減っています。
看護師から医師以外の職種への分担も進んでいます。
日本看護協会の 2025 年の調査では、看護師から他の職種へのタスク・シフト/シェアを「実施している」病院は 72.9% で、前年より 2.3 ポイント増えました。
移した先は薬剤師 64.2%、臨床検査技師 48.9%、理学療法士 45.8%、臨床工学技士 39.0% の順です。
支援人材と特定行為研修
- 含まれる業務(医師の指示の下で)
- 診断書、診療情報提供書、診療サマリー、診療計画書などの文書作成の補助
- 診療記録と検査オーダーとクリニカルパスへの代行入力
- 患者と家族への説明文書の準備と作成
- 診療録と画像検査結果の整理
- 院内がん登録などのデータ整理
- 入院時の案内などの病棟での患者対応
- 救急医療情報システムへの入力などの行政上の業務
- 含まれない業務
- 医師以外の職種の指示の下で行う業務
- 診療報酬の請求事務
- 窓口と受付の業務
看護師が特定行為を行うには、特定行為研修の修了が要ります。
厚生労働省は領域ごとに「特定行為研修修了者の活用ガイド」を出しており、いきいき働く医療機関サポート Web の医師の働き方改革の制度解説(厚生労働省)に載っています。
- 救急 令和 7 年 2 月
- 麻酔科と集中治療 令和 7 年 3 月
- プライマリ・ケアと在宅医療 令和 8 年 3 月
病院で特定行為の実施率が 46.6% にとどまるのは、研修を修了した看護師の数と、修了者を生かす院内の仕組みの両方が要るためです。
医師労働時間短縮計画作成ガイドライン(令和 6 年 11 月改訂)は、労働時間短縮に向けた取組の例を 5 つに分けています(医師の働き方改革に係る現状等(厚生労働省PDF)30 ページ)。
タスク・シフト/シェアは、この 5 つの 1 つです。
- タスク・シフト/シェア 8 職種。
- 医師の業務の見直し 外来、宿日直の体制と業務、オンコール、主治医制、副業や兼業先を含むシフト。
- その他の勤務環境改善 ICT、両立支援、短時間勤務、院内保育。
- 副業や兼業を行う医師の労働時間の管理
- C-1 水準の研修の効率化
ICT と DX による業務の効率化
人を増やせないときに残る手段が、業務そのものを減らすことです。
令和 8 年度の検討会の第 1 回では、「タスク・シフト/シェアは進んでいるものの、医療従事者の確保が困難となってきている状況も踏まえ、今後は ICT・AI の活用等による業務効率化を更に推進する必要がある」という意見が整理されました(第 2 回 資料 2(厚生労働省PDF)3 ページ)。
令和 8 年度の診療報酬改定は、この方向を 2 つの形で後押ししています。
- 看護の ICT 活用で、看護師の比率の 1 割以内の減少を許容見守り、記録、医療従事者間の情報共有に ICT 機器を組織的に活用し、看護職員と看護補助者の業務を軽減したうえで適切に看護できる体制がある場合に、看護師の比率などが 1 割以内の減少であれば入院基本料の基準を満たすものとする。個別改定項目(厚生労働省PDF)58 ページ
- 医師事務作業補助者の配置基準の柔軟化ICT 機器を活用して医師事務作業の効率化に取り組む医療機関について、医師事務作業補助者の人員配置基準を柔軟にする。同 64 ページ
国の予算では、業務の DX 化に取り組む医療機関を支援するため、令和 7 年度の補正予算に 200 億円が計上されました。
例として挙がっているのは次の 4 つです(健康保険法等の一部を改正する法律の成立について(厚生労働省PDF))。
- スマートフォン チャットやビデオ通話での情報共有。
- 病室の見守りカメラとスマートグラス
- 音声入力とバイタルの自動入力
- 生成 AI 文書作成の支援。
2027 年 4 月からは、地域医療介護総合確保基金に業務効率化と勤務環境改善の新しい区分が設けられます(第 6 章)。
病院の側の導入状況を、看護の現場で見ておきます。
日本看護協会の 2025 年の調査では、次のとおりでした。
- 離床センサーなど患者の状態把握の機器73.8%導入している病院
- 勤務表作成の支援ソフト32.4%導入している病院
- 院外との情報共有のための ICT26.8%導入している病院
- 看護記録の音声入力ソフト5.6%導入を検討、関心がある病院は 49.9% で、導入の意向がもっとも多い項目
導入の課題は、初期費用の財源の確保 84.3%、運用費の財源の確保 69.2% です。
基金の新しい区分と、補助金の情報(補助金ページ)は、この財源の相談先になります。
ICT を入れるときの留意は、国会の附帯決議にも書かれました。
業務効率化と勤務環境改善の責務の明確化にあたっては、医療の安全性と質の担保、患者のプライバシーと個人情報の保護に留意し、現場の労働者の負担軽減に資する取組となるようにすること、です。
機器を入れることが目的ではなく、職員の負担が減ることが目的です。
自院で確かめること
- 役割分担を進めるための委員会があり、病院長などの管理者が出席しているか。
令和 7 年の調査では 42.3% の病院が実施している。 - 業務を受ける側の職種(看護師、薬剤師、技師、医師事務作業補助者、看護補助者)に、新しい業務の研修の機会と、人員の余力を用意しているか。
- 勤怠管理、音声入力、見守りなどの ICT を入れているか。
入れていないなら、財源の相談先(基金、補助金)と、入れたあとに減る業務を整理しているか。
この章の一次資料
- 現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について 令和 3 年 9 月 30 日 医政発 0930 第 16 号。
本文は いきいき働く医療機関サポート Web 各種法令・通知(厚生労働省) - 同 通知等に関する Q&A 令和 6 年 6 月 14 日 事務連絡(厚生労働省PDF)
- 医師の働き方改革に係る現状等 令和 8 年度 医師の働き方改革の推進等に関する検討会 第 1 回 資料 2-1(2026 年 7 月 13 日)。
30〜34 ページ、83 ページ(厚生労働省PDF) - 第 1 回検討会での議論の整理等 同検討会 第 2 回 資料 2(2026 年 9 月 10 日)(厚生労働省PDF)
- 令和 8 年度診療報酬改定 個別改定項目(2026 年 2 月 13 日)。
Ⅰ-2-2 業務の効率化に資する ICT、AI、IoT 等の利活用の推進(厚生労働省PDF) - 健康保険法等の一部を改正する法律の成立について(報告)第 128 回 社会保障審議会医療部会 資料 3(2026 年 6 月 17 日)(厚生労働省PDF)
- 特定行為研修修了者の活用ガイド(領域別)。
いきいき働く医療機関サポート Web 医師の働き方改革の制度解説(厚生労働省) - 2025 年 病院看護実態調査 結果(2026 年 3 月 31 日)(日本看護協会PDF)。
国の統計ではなく、日本看護協会の調査
制度や数値は掲載時点の情報です。最新の内容は所管の原文でご確認ください。 労務の適用は個別の事情で異なります。判断に迷うときは、都道府県の医療勤務環境改善支援センターへご相談ください。 内容の誤りは訂正受付窓口からお知らせください。