第4章 看護職員の確保と夜勤
病院でいちばん人数が多い職種は看護職員です。
医師の働き方改革が注目を集める一方で、看護職員の勤務環境には別の決まりと支援があります。
この章では、2023 年に 31 年ぶりに改定された看護師等確保基本指針、夜勤の負担と月 72 時間の要件、処遇改善の 2 つの評価料、離職率の数字、確保のための働き方と ICT、2040 年に向けた国の検討会を順に見ます。
看護師等確保基本指針の改定で書かれたこと
看護師等の人材確保の促進に関する法律は、国に、看護師等の確保を促進するための基本的な指針を定めることを求めています。
この指針は 1992 年の制定から改定されておらず、2023 年 10 月 26 日に文部科学省と厚生労働省の告示第 8 号として初めて改定されました(看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針(厚生労働省PDF))。
改定の背景は、看護の担い手の急減と看護のニーズの増大、新興感染症への備えです。
第三の「病院等に勤務する看護師等の処遇の改善に関する事項」には、夜勤等の業務負担の軽減と業務の効率化が最初に書かれています。
国は、看護職員の確保の鍵を夜勤の負担に見ています。
改定で初めて書かれたのが、勤務間インターバルです。
指針は次のように述べています。
看護師等の夜勤負担の軽減を推進する観点から、国及び都道府県においては、病院等に対して、同法に則り、看護師等に係る勤務間インターバルの確保を図るよう推奨することが重要であるとともに、病院等においては、看護師等に係る勤務間インターバルの確保を図るよう努力していくことが必要である。
看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針 第三の一(厚生労働省PDF)
「同法」とは労働時間等設定改善法で、働き方改革関連法の改正により 2019 年 4 月から勤務間インターバルの確保が事業主の努力義務になっています。
医師の勤務間インターバルが医療法で 9 時間と決まっているのに対し、看護職員の場合は時間数の定めはなく、事業主の努力義務です。
指針はこのほか、カルテの電子化などの ICT 化、訪問看護の情報共有と 24 時間対応の効率化、先進事例の収集と横展開を挙げています。
夜勤の負担
指針が夜勤について病院に求めていることは、3 つにまとめられます。
- 月 8 回以内の夜勤体制3 交代制の場合は、複数を主として月 8 回以内の夜勤体制の構築に引き続き積極的に努力する。
ほかの看護体制でも、負担に配慮した夜勤体制に努力する。指針 第三の一 - 休憩と仮眠労働基準法のとおり、実労働が 6 時間を超え 8 時間までは 45 分以上、8 時間を超える場合は 1 時間以上の休憩を勤務の途中に設ける。
夜勤時間の長さと健康状態に応じて仮眠時間を設定するよう努力し、労働安全衛生規則に則って適当な仮眠の場所を設ける。指針 第三の一 - 年次有給休暇の計画的な取得勤務割を長期に組むなどで、計画的に取得できるようにする。指針 第三の一
出典: 看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針。
令和 8 年度診療報酬改定 個別改定項目(厚生労働省PDF)56〜57 ページ
診療報酬は、夜勤を次の形で要件と評価に組み込んでいます(令和 8 年度診療報酬改定 個別改定項目(厚生労働省PDF)56〜57 ページ)。
- 月平均夜勤時間 72 時間以下 入院基本料の要件として、看護職員の月平均夜勤時間が 72 時間以下であることが定められている。
- 夜間の配置の評価 看護職員夜間配置加算や夜間看護体制加算は、夜間の手厚い配置と、負担の軽減と処遇の改善に資する体制を評価する。
- 令和 8 年度改定で計画の要件 これらの加算が求める「負担の軽減及び処遇の改善に資する計画」は、夜勤を含む勤務の状況を把握し、問題点を抽出したうえで、具体的な取組と目標達成の年次を含めた計画にする。
- 周知と掲示 計画は職員に周知し、取組の事項は院内に掲示などで公開する。
日本看護協会の 2025 年の調査は、一般病棟の夜勤時間をこう示しています(2025 年 病院看護実態調査(日本看護協会PDF))。
- 1 か月の夜勤が 72 時間超33.9%前年から 0.4 ポイント減
- 夜勤 0 時間6.7%一般病棟の看護職員
- 夜勤 1 時間から 16 時間未満9.0%一般病棟の看護職員
国の指針と診療報酬が夜勤の負担に注目しているのは、この数字が示す現実があるからです。
処遇改善の 2 つの評価料
看護職員の賃金改善を診療報酬で支える仕組みは、2 段階で作られました。
- 2022 年 10 月看護職員処遇改善評価料。
看護職員の賃金改善の体制を評価 - 2024 年 6 月ベースアップ評価料(入院、外来・在宅)。
医療に従事する職員の賃上げを評価 - 2026 年 6 月令和 8 年度改定。
対象職員を「当該保険医療機関において勤務する職員」に広げ、評価料の収入を夜勤手当の増額に充てられるように
出典: 令和 8 年度診療報酬改定 個別改定項目(厚生労働省PDF)30〜43 ページ
令和 8 年度の改定は、看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種の確実な賃上げを更に推進するとして、ベースアップ評価料の対象職員を広げ、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の点数を初診 6 点から 17 点、再診 2 点から 4 点に引き上げました。
継続的に賃上げを実施している医療機関とそれ以外で評価を分け、令和 6 年度と 7 年度に賃上げを実施していない医療機関を区別する減算を入院基本料等に新設しています(厚生労働省PDF 30〜43 ページ)。
夜勤に関わる見直しが、夜勤手当の扱いです。
改定は「夜勤職員の確保を行う観点から、看護職員処遇改善評価料及びベースアップ評価料による収入を、夜勤手当の増額に用いることを可能とする」とし、恒常的に夜間を含む交替勤務制をとっている職場の職員に支払われる夜勤手当は、毎月支払われる手当に準じて基本給等に含めて差し支えないとしました(同 42〜43 ページ)。
日本看護協会の調査によると、定額の夜勤手当は 2010 年からほぼ横ばいで、看護職員が夜勤を続けるために必要な条件の第 1 位は「納得感のある夜勤手当」でした。
届出の様式と記載方法は、ベースアップ評価料に係る特設ページ(厚生労働省)にあります。
離職率を数字で見る
看護職員の離職率は、国の統計にはありません。
日本看護協会が毎年、全国の病院の看護部長に調査して公表しています。
2025 年の調査は全国の病院 8,022 施設を対象に 2025 年 10 月 1 日から 11 月 17 日に行われ、3,502 施設が回答しました(回収率 43.7%)。
離職率は、年間の総退職者数(定年退職を含む)を平均職員数で割ったものです。
出典: 日本看護協会 2025 年 病院看護実態調査(日本看護協会PDF)2026 年 3 月 31 日
2024 年度の離職率は次のとおりです。
- 正規雇用の看護職員11.0%前年度 11.3%
- 新卒採用者8.4%前年度 8.8%
- 既卒採用者16.1%前年度 16.1%
- 医療法人(正規雇用)14.0%公立 8.0%、国立 9.6%
病床規模別の正規雇用の離職率は、図 4-3 のとおり 99 床以下の 13.1% から 500 床以上の 10.0% まで、小さい病院ほど高い傾向があります。
新卒ではその差がさらに大きく、99 床以下の 13.8% に対し 500 床以上は 7.6% です。
新卒看護師が年度内に退職した理由として看護管理者が挙げたのは、次の順です。
- 健康上の理由(精神的疾患) 54.6%。
500 床以上の病院では 71.2%。 - 自分の看護職員としての適性への不安 46.6%。
- 自分の看護実践能力への不安 44.2%。
1 か月以上の病気休暇をとった職員がいた病院は 72.6% で、そのうちメンタルヘルスの不調者がいた病院は 79.5%、平均 5.4 人です。
離職の背景に、夜勤だけでなく心の健康があることが読み取れます。
給与については、新卒の基本給と勤続 10 年の基本給が次のとおりでした。
- 新卒(高卒 3 年課程)216,416円前年度比 3.2% 増
- 新卒(大卒)221,883円前年度比 2.9% 増
- 勤続 10 年254,286円前年度比 1.6% 増
これらは日本看護協会の調査の値で、国の統計ではありません。
産業別の離職率や年休の取得率のような国の統計との比較は、病院ドックの病院で働こうにまとめています。
確保のための働き方と ICT
同じ調査は、病院が看護職員を確保するために導入している働き方も聞いています。
多い順に次のとおりです。
- 日勤のみ 54.7%
- 夜勤の回数や時間や曜日を選べる 44.1%
- 短時間勤務 39.3%
- 本人の希望する専門領域や部署への配属 38.7%
- 夜勤のみ 31.2%
夜勤を続けるために必要な条件として看護職員が挙げたのは、次の 3 つです。
- 納得感のある夜勤手当 41.4%
- 夜勤明けの翌日が必ず休日 39.7%
- 夜勤中の十分な休憩と仮眠 35.6%
ICT の導入状況は次のとおりでした。
- 離床センサーなど患者の状態の把握 73.8%
- 勤務表作成支援ソフト 32.4%
- 院外との情報共有のための ICT 26.8%
- 看護記録の作成を支援する音声入力ソフト 5.6% にとどまるが、導入を検討している、関心があるとした病院は 49.9% で、導入の意向がもっとも多い項目。
- 課題 初期費用の財源の確保 84.3%、運用費の財源の確保 69.2%。
国もこの方向を後押ししています。
令和 8 年度の改定は、見守り、記録、医療従事者間の情報共有に ICT 機器等を組織的に活用して看護要員の業務を軽減したうえで適切に看護を行える体制がある場合、看護職員に対する看護師の比率等が 1 割以内の減少であれば入院基本料等の基準を満たすものとして算定できるようにしました(令和 8 年度診療報酬改定 個別改定項目(厚生労働省PDF)58〜63 ページ)。
指針が挙げる仮眠室や休憩スペースの整備は、地域医療介護総合確保基金の支援の対象です(第 6 章)。
看護師から医師以外の職種へのタスク・シフト/シェアを実施している病院は 72.9% で、第 5 章で扱います。
2040 年に向けた看護職員の検討会
厚生労働省は、新たな地域医療構想の策定に合わせ、「2040 年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」を開いています。
看護職員の需給の状況、地域と領域による偏在、勤務環境、養成所の定員充足の状況を踏まえ、今後求められる資質と、国や都道府県が講じる施策を整理し、需給見通しの推計方法を見直すものです。
論点は 4 つに分かれます(医師の働き方改革に係る現状等(厚生労働省PDF)122 ページ)。
- 養成 今後求められる資質と実践能力、養成所の定員充足の状況。
- 確保 需給の状況、地域と領域による偏在、需給見通しの推計方法の見直し。
- 勤務環境改善 看護管理者の能力向上、両立支援と夜勤を含む多様で柔軟な働き方、ICT による業務効率化。
- ハラスメント対策 勤務環境改善の論点の 1 つとして挙げられている。
指針も、今回の改定以降も医療提供体制の見直しの状況を踏まえて必要に応じて見直すとしています。
検討会の資料と議事は、厚生労働省の政策の動き(人材確保)で追えます。
看護職員の確保対策の全体は、看護職員確保対策(厚生労働省)のページにまとまっています。
自院で確かめること
- 看護職員の月平均夜勤時間を病棟ごとに確かめ、夜勤を含む負担の軽減と処遇の改善の計画があり、職員に周知し、院内に掲示しているか。
- 夜勤の途中の休憩と仮眠の場所があり、3 交代制なら月 8 回以内の夜勤体制に向けた取組をしているか。
- 看護職員処遇改善評価料とベースアップ評価料の収入の使途(賃金改善、夜勤手当)を記録し、報告しているか。
この章の一次資料
- 看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針 令和 5 年 10 月 26 日 文部科学省・厚生労働省告示第 8 号(厚生労働省PDF)。
看護職員確保対策(厚生労働省) - 令和 8 年度診療報酬改定 個別改定項目(2026 年 2 月 13 日)Ⅰ-2-1 医療従事者の処遇改善、Ⅰ-2-2 業務の効率化に資する ICT、AI、IoT 等の利活用の推進(厚生労働省PDF)。
ベースアップ評価料に係る特設ページ(厚生労働省) - 令和 8 年度 医師の働き方改革の推進等に関する検討会 第 1 回 資料 2-1 医師の働き方改革に係る現状等(2040 年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会の概要)(厚生労働省PDF)
- 日本看護協会 2025 年 病院看護実態調査 結果(2026 年 3 月 31 日)(日本看護協会PDF)、2025 年 看護職員実態調査 結果(日本看護協会PDF)
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