第3章 医師の働き方改革、施行から 2 年
2024 年 4 月に、医師の時間外労働と休日労働に上限がつきました。
それから 2 年がたち、厚生労働省の検討会が施行後の実態を確かめています。
この章では、5 つの水準と 36 協定の仕組み、都道府県の指定と評価センター、面接指導と勤務間インターバル、宿日直許可と自己研鑽の線引きを順に見たうえで、令和 7 年の実態調査の数字と、2026 年度の検討会の論点を確かめます。
A 水準の病院にも関係することを、1 つの節にまとめました。
5 つの水準と 36 協定
一般の職員の時間外労働の上限は、労働基準法第 36 条が定めています。
限度時間は月 45 時間と年 360 時間で、特別条項を結んでも月 100 時間未満、年 720 時間、複数月の平均 80 時間以内です。
医業に従事する医師には同法第 141 条の特例があり、限度時間を「労働者の健康及び福祉を勘案して厚生労働省令で定める時間」に読み替え、複数月平均 80 時間の規定を適用しません(労働基準法 第 36 条、第 141 条(e-Gov 法令))。
省令で定めた時間が、次の 5 つの水準です。
出典: 医師の時間外労働の上限規制の解説(厚生労働省)令和 5 年 12 月
- A 水準(原則)年 960 時間、月 100 時間未満。
すべての病院の医師に当たる原則の水準。指定は要らない - 連携 B 水準自院では年 960 時間。
副業や兼業の先と合わせると年 1,860 時間まで。
医師を派遣する病院が対象。連携型特定地域医療提供機関 - B 水準年 1,860 時間、月 100 時間未満。
救急医療などで、やむを得ず長時間の業務がある病院。特定地域医療提供機関 - C-1 水準年 1,860 時間。
臨床研修医と専攻医の研修のため。技能向上集中研修機関 - C-2 水準年 1,860 時間。
高度な技能の修得のため。
審査組織の審査を経る。特定高度技能研修機関
上限には 2 種類があります。
36 協定を結ぶときの事業場の上限(特別延長時間の上限)と、医師一人ひとりに当たる上限(時間外・休日労働時間の上限)です。
副業や兼業の先の労働時間は、医師個人の上限では通算し、36 協定の上限では通算しません。
A 水準の病院の医師が特例水準の病院で兼業している場合、個人の上限は特例の 1,860 時間になります。
上限を超えて労働させた使用者には、6 月以下の拘禁刑または 30 万円以下の罰金の規定があります(労働基準法 第 141 条第 5 項)。
B 水準と連携 B 水準は「地域医療確保暫定特例水準」と呼ばれ、省令の附則は、令和 18 年 3 月 31 日を目途にその時間を 960 時間にすることを目標として、施行後 3 年ごとに見直すと定めています(医師の働き方改革に係る現状等(厚生労働省PDF)6 ページ)。
都道府県の指定、時短計画、評価センター
特例の水準を使うには、医療機関が都道府県知事の指定を受けます。
医療法第 113 条は、救急医療、居宅等における医療、地域でその病院以外では提供が困難な医療のために、やむを得ず医師を長時間従事させる必要がある病院を、申請により特定地域医療提供機関に指定できるとしています(医療法 第 113 条(e-Gov 法令))。
出典: 医療法 第 113 条、第 131 条。
医師の働き方改革に係る現状等(厚生労働省PDF)74〜75 ページ
申請には、医師労働時間短縮計画(時短計画)の案を添えます。
要件は 3 つで、計画の案が医師その他の関係者の意見を聴いて作られていること、面接指導と休息時間の確保の体制が整っていること、労働法令の違反による処分や公表の事実がないことです。
知事は、医療機関勤務環境評価センターの評価の結果を踏まえ、都道府県医療審議会の意見を聴いて指定し、指定したら公示します。
評価センターは医療法第 131 条に基づく機関で、管理者の求めに応じて医師の労働時間短縮の取組の状況を評価し、助言と指導をします。
令和 5 年度から 7 年度に 498 の機関へ結果を通知しました。
結果は 4 つの区分で、「取組は十分で短縮が進んでいる」「取組は十分だが短縮が進んでいない」「改善の必要があるが計画案から改善が見込まれる」「計画案も見直しが必要」のうち、最後の区分は 0 件でした。
令和 8 年度は更新の評価が中心で、受審から結果通知までは書類に不備がなくても概ね 4 か月かかります(厚生労働省PDF 74〜75 ページ)。
指定を受けている医療機関は、2026 年 4 月 1 日で連携 B 水準 148、B 水準 403、C-1 水準 135、C-2 水準 13 です(重複あり)。
機関数は 479 で、2024 年 12 月の 460 からやや増えました(厚生労働省PDF 59 ページ)。
時短計画の作り方は、医師労働時間短縮計画作成ガイドライン(令和 6 年 11 月改正)とひな型が、いきいき働く医療機関サポート Web(厚生労働省)にあります。
医師の健康を守る 3 つの措置(追加的健康確保措置)
上限の規制と対になっているのが、医師の健康を守る追加的健康確保措置です。
医療法第 107 条は、病院の管理者に、医師の健康状態を把握し適切に対応する体制を整備することを求めています。
措置は、面接指導、勤務間インターバル、代償休息の 3 つです。
出典: 医療法 第 107 条、第 108 条、第 110 条、第 123 条(e-Gov 法令)
病院又は診療所の管理者は、当分の間、当該病院又は診療所に勤務する医師のうち、各月の労働時間の状況が厚生労働省令で定める要件に該当する者(以下この条において「面接指導対象医師」という。)に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師(面接指導対象医師に対し、面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。
以下同じ。)を行うのに適切な者として厚生労働省令で定める要件に該当する者に限る。
以下この条において「面接指導実施医師」という。)による面接指導を行わなければならない。
医療法 第 108 条第 1 項(e-Gov 法令)
- 面接指導
- だれに
- 時間外・休日労働が月 100 時間以上になる見込みの医師。
水準を問わず義務。 - 中身
- 面接指導実施医師(講習会の修了が要る)が行う。
結果に基づいて意見を聴き、必要なら労働時間の短縮や宿直の回数の減少などの措置をとり、記録を保存する。
- 勤務間インターバル
- だれに
- A 水準の医師は努力義務、特例水準の医師は義務。
- 中身
- 業務の開始から一定の時間までに、継続した休息時間(9 時間)を確保する。
基準に適合する宿日直勤務にあたる場合は例外がある。
- 代償休息
- だれに
- 勤務間インターバルを確保できなかった医師。
- 中身
- 事後に相当する休息を確保する。
宿日直中に労働させたときも、事後に休息を確保する。
運用の実態を、2 つの調査の数字で見ます。
面接指導実施医師の修了者数は 2026 年 5 月 25 日の値(厚生労働省PDF 43 ページ)、ほかは特定労務管理対象機関への調査(令和 6 年 4〜9 月)の値です(第 2 回検討会 資料 2(厚生労働省PDF)14 ページ)。
- 面接指導実施医師の修了者15,035名2026 年 5 月 25 日
- 面接指導の対象になった医師27.48人1 機関あたり平均
- 面接指導の実施43.48件1 機関あたり平均(延べ)
- 面接指導実施医師13.00名1 機関あたり平均
- 院内で確保 9 割の機関が、面接指導実施医師を院内の医師だけで確保している。
- 直属の上司を避ける 直属の上司を面接指導実施医師にしないと決めている機関が 83.5%。
- 勤怠管理システム 令和 7 年度の調査では、勤務間インターバルと代償休息を確かめられる医療機関が前年より増え、変形労働時間制やタスク・シフト/シェアも伸びている(厚生労働省PDF 39〜42 ページ)。
宿日直許可と自己研鑽の線引き
医師の労働時間を数えるうえで、2 つの線引きがあります。
1 つは宿日直許可です。
労働基準法第 41 条第 3 号は、監視または断続的労働に従事する者で行政官庁の許可を受けたものには、労働時間の規定を適用しないとしています(労働基準法 第 41 条(e-Gov 法令))。
労働基準監督署の許可を受けた宿日直の待機時間は、労働時間に数えません。
許可があるかどうかで、医師の時間外労働の数え方が大きく変わります。
令和 7 年度の調査では、自分の宿日直に許可があるかを知っている医師は 71.0%、そのうち許可の内容まで知っている医師は 79.2% でした(厚生労働省PDF 46 ページ)。
許可の要件や申請の進め方は、厚生労働省の医療機関の宿日直許可に関する FAQ(令和 6 年 8 月版)にあり、都道府県の医療勤務環境改善支援センター(第 2 章)が相談を受けています。
もう 1 つは自己研鑽です。
診療や教育や研究のうち、上司の指示や業務との関係で労働時間にあたるものと、あたらないものを分けます。
令和 7 年度の調査では、研鑽の区分を明確にする規程や区分表があり運用している病院は 36.3%、規程はあるが運用していない病院が 5.2%、規程がない病院が 58.4% でした。
規程がない理由は「診療や教育や研究との切り分けが難しい」が 29.2%、「申請や記録や承認の手続が具体化されていない」が 21.3% です(厚生労働省PDF 44 ページ)。
専攻医への意識調査では、勤務先の「労働」と「自己研鑽」の区分に満足している医師が 19.0%、不満はあるが許容範囲が 29.3% で、年換算 960 時間を超える医師では「かなり不満があり大幅な見直しが必要」が 39.8% でした(45 ページ)。
検討会は、考え方の整理と周知が必要だと見ています。
2 年たって、数字はどうなったか
厚生労働省は、平成 28 年、令和元年、令和 4 年と同じ規模の勤務実態調査を令和 7 年 10 月 6 日から 12 日に行いました。
医師票の回答は 23,089 人で、分析の対象は病院の常勤医 13,205 人です(医師の働き方改革に係る現状等(厚生労働省PDF)10〜11 ページ)。
出典: 医師の働き方改革に係る現状等(厚生労働省PDF)13 ページ。
令和 8 年度 医師の働き方改革の推進等に関する検討会 第 1 回 資料 2-1
週 60 時間以上働く病院の常勤医の割合は、平成 28 年の 39.2% から、令和元年 37.8%、令和 4 年 21.2%、令和 7 年 15.0% へ減りました。
週 50 時間以上のすべての区分で減っています。
年換算は(労働時間 − 40 時間)× 48 週で、兼業先の労働時間を含み、許可のある宿日直の待機時間は除いています。
出典: 同 14 ページ
診療科別では、外科 25.1%、救急科 23.7%、産婦人科 22.8% が高く、ほとんどの診療科で減っています。
年代別では 40 代の労働時間がわずかに長く、勤務先では大学病院の医師が長い傾向でした。
水準別では、連携 B 水準と C-2 水準の医師が長く、C-1 水準の臨床研修医は A 水準よりわずかに長い程度でした(18 ページ)。
病院が行っている医師の負担軽減の取組も、令和 4 年と比べられます。
病状説明を診療時間内に限る病院が 70.9%、医師が出席する会議を所定の就業時間内に開く病院が 73.7%、勤務間インターバルの導入は 32.4% で 3 年で 18.0 ポイント増えました。
当直翌日の業務の軽減は 44.8%、複数主治医制は 33.1% です(33 ページ。
第 5 章で詳しく見ます)。
宿直明けの休みについては、「休みやすくなった」が 21.3%、「変わらない」が 46.7%、「休みにくくなった」が 3.7% でした(56 ページ)。
地域医療への影響については、令和 6 年度と 7 年度の調査のいずれも、一部で影響が示唆されたものの、大半では大きな影響はなかったとされています。
循環器救急医療を対象にした論文では、血行再建の手技へのアクセスの低下や転帰の悪化は認められませんでした(22〜23 ページ)。
A 水準の病院にも関係すること
特例の指定を受けていない病院でも、医師の働き方改革は他人事ではありません。
関係するのは次の 4 つです。
- 36 協定と労働時間の把握医師を含む 36 協定(様式第 9 号の 4 と 5)を結び、労働時間を客観的な方法で把握します。
2026 年 2 月 26 日から、この様式は「確かめよう労働条件」で電子申請できます。労働基準法 第 36 条、第 141 条 - 面接指導(義務)月 100 時間以上の見込みの医師への面接指導は、水準にかかわらず義務です。
面接指導実施医師を院内か外部で確保します。医療法 第 108 条 - 勤務間インターバル(努力義務)A 水準の医師には 9 時間の休息の確保が努力義務です。
宿日直許可のある宿日直は例外があります。医療法 第 110 条 - 宿日直許可と自己研鑽許可の有無と内容を院内で共有し、研鑽の区分の規程を作ります。
兼業先の労働時間は個人の上限で通算します。労働基準法 第 41 条、上限規制の Q&A
診療報酬でも、地域医療体制確保加算は時短計画の作成と客観的な労働時間の把握を要件にしています(第 6 章)。
時短計画作成ガイドラインは、労働時間短縮の取組の例として、タスク・シフト/シェア、外来業務や宿日直やオンコールや主治医制の見直し、ICT と両立支援と短時間勤務、副業と兼業の労働時間の管理を挙げています(厚生労働省PDF 30 ページ)。
A 水準の病院は時短計画の作成が努力義務ですが、この例は計画の有無にかかわらず使えます。
今の議論
令和 8 年度の検討会は、施行後 2 年の状況を確かめ、3 年ごとに見直すとされている水準と短縮目標ラインを検討しています。
- 第 1 回(2026 年 7 月 13 日)の論点全体として労働時間は縮減し、制度は定着した一方で、課題が残る。
- 長時間労働の医師がいる医療機関と大学病院に課題が残る
- 自己研鑽の区分の混乱
- 都道府県の勤改センターの体制の差
- C-2 水準の適用が少ない
- 第 2 回(9 月 10 日)の資料が示したこと連携 B 水準と B 水準の医師の時間外労働と休日労働の時間は、全体として縮減した。
- 各医療機関の最大の時間が年 960 時間を超える医療機関が、なお約 8 割を占める
- 960 時間超の医師は循環器内科、外科、心臓血管外科、救急科の順に多い
- 次の目標ラインは、健康の確保と地域医療への影響に配慮して着実に縮減できる設定にしてはどうか、と論点を立てている
短縮目標ラインは、医師の労働時間短縮等に関する指針(令和 4 年厚生労働省告示第 7 号(厚生労働省PDF))が定めるものです。
2024 年 4 月時点の時間数から 3 年ごとに段階的に下げ、令和 17 年度末に 960 時間へ到達することを目指します。
第 3 回以降で報告書の骨子がまとめられる予定です。
検討会の資料と議事は、厚生労働省の政策の動き(人材確保)で追えます。
自院で確かめること
- 医師が行う宿日直に労働基準監督署の許可があるか、許可の範囲(時間帯、業務、回数)を院内で共有しているか。
- 医師ごとに適用する水準(A か特例か)が決まり、特例なら都道府県の指定を受け、兼業先の労働時間を通算して把握しているか。
- 面接指導の体制(面接指導実施医師、対象医師の抽出の方法)、勤務間インターバルと代償休息の運用、研鑽の区分の規程があるか。
この章の一次資料
- 医療法 第 105 条、第 107 条、第 108 条、第 110 条、第 113 条、第 123 条、第 128 条、第 131 条(e-Gov 法令)
- 労働基準法 第 36 条、第 41 条、第 141 条(e-Gov 法令)
- 医師の労働時間短縮等に関する指針 令和 4 年厚生労働省告示第 7 号(厚生労働省PDF)
- 令和 8 年度 医師の働き方改革の推進等に関する検討会 第 1 回(2026 年 7 月 13 日)資料 2-1 医師の働き方改革に係る現状等(厚生労働省PDF)、資料 2-2 医師の働き方改革の推進等に係る論点(厚生労働省PDF)
- 同 第 2 回(2026 年 9 月 10 日)資料 2 第 1 回検討会での議論の整理等(厚生労働省PDF)、資料 3 勤改センターの在り方・短縮目標ライン等(厚生労働省PDF)
- 医師の働き方改革の制度解説・最新情報。
上限規制の解説(令和 5 年 12 月)、Q&A(令和 5 年 6 月、追補 令和 7 年 1 月)、医師労働時間短縮計画作成ガイドライン(令和 6 年 11 月改正)、宿日直許可に関する FAQ(令和 6 年 8 月)、面接指導のポイント(令和 6 年 5 月)(厚生労働省)
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