第7章 患者との対話、相談窓口、そして自院の体制を点検する

執筆者/監修

病院ドック編集部

病院ドック運営(株式会社ウェブリク)

病院ドックを運営する株式会社ウェブリクの編集部が、病院の運営にかかわる制度と行政の仕組みを、公的資料をもとに要点をしぼって解説します。

一般の方の目線で医療を分かりやすく伝えることを目指しています。

医療安全は、病院の中だけで完結するものではありません。
患者と家族は、治療への不安や疑問を院内の相談窓口に持ち込み、納得できなければ都道府県等の医療安全支援センターに相談し、死亡事例であれば医療事故調査・支援センターに相談します。
2026 年 3 月の通知は、指針に患者との情報の共有と相談への対応を書くことを改めて求めました。
この章では、患者との対話の仕組み、3 層の相談窓口、医療安全推進週間、そして 2026 年 4 月の通知に自院の指針を当てて見直す手順を見ていきます。
最後に、自己点検へつなぎます。

指針に書く、患者との情報の共有と相談

2026 年 3 月 31 日の通知が指針に書くよう求める 8 項目のうち、2 つは患者に向いています。
⑥ 医療従事者と患者との間の情報の共有に関する基本方針(患者等に対する指針の閲覧に関する基本方針を含む)と、⑦ 患者からの相談への対応に関する基本方針です(病院等における医療の安全を確保するための措置について(厚生労働省PDF)⑴)。
指針を患者が閲覧できるようにすることは、2007 年の通知から続く項目です。

図 7-1 患者と家族の相談が届く 3 つの層。院内、都道府県等、第三者機関
院内の相談窓口指針の ⑦ 患者からの相談への対応医療安全対策加算: 掲示と連携患者サポート体制充実加算: 専任の職員医療対話推進者の研修が望ましい医療安全支援センター都道府県、保健所設置市、特別区390 か所(令和 7 年 7 月)令和 6 年度 129,832 件苦情 26.8%、相談 71.9%医療事故調査・支援センター死亡事例の遺族等からの相談伝達 35 件(2025 年)センター調査の依頼 28 件(遺族)2026 年 4 月〜 伝達への再判断と説明患者と家族病院の側から見ると院内の窓口で受け止めきれなかった声は都道府県等の窓口へ届き、医療機関への連絡や助言、立入検査の部門への引継ぎになることがある。死亡事例の相談は、遺族等の求めがあればセンターから病院に伝達される。出典: 医療法 第 6 条の 13、第 6 条の 16、医政発 0331 第 72 号、施設基準 第 20 と第 21 の 2、医療安全支援センター総合支援事業。

出典: 医療法 第 6 条の 13、第 6 条の 16、病院等における医療の安全を確保するための措置について ⑴⑥⑦、基本診療料の施設基準等 第 20、第 21 の 2

  • 院内の相談窓口指針の ⑦。
    医療安全対策加算は、医療安全管理者等による相談と支援が受けられる旨の掲示を要件にし、医療安全管理者の業務に相談窓口との連携を入れている。
    患者サポート体制充実加算は専任の職員の常時配置。
    第 6 章
  • 都道府県等の医療安全支援センター医療法第 6 条の 13。
    患者と家族の苦情と相談に応じ、必要に応じて患者や病院に助言する。
    令和 7 年 7 月で 390 か所。
    本章
  • 医療事故調査・支援センター死亡事例について遺族からの相談に応じ、求めがあれば相談の内容を病院の管理者に伝達する。
    医療事故として報告された事例は、遺族からセンター調査を依頼できる。
    第 3 章

患者サポート体制充実加算の施設基準は、相談窓口の職員が医療関係団体等が実施する「医療対話推進者」の養成の研修を修了していることが望ましいとしています。
相談窓口は医療安全対策加算の窓口と兼ねてよく、各部門に担当者を置き、週 1 回程度のカンファレンスで取組を評価し、相談の件数と内容と相談後の取扱いを記録します(基本診療料の施設基準等(厚生労働省PDF)第 21 の 2)。
入院時には文書で窓口を説明します。

都道府県等の医療安全支援センター

医療法第 6 条の 13 は、都道府県、保健所設置市、特別区に医療安全支援センターを設けるよう努めることとしています。
事務は、患者と家族からの苦情への対応と相談、助言、医療の安全に関する情報の提供、管理者と従業者への研修、その他の支援です。
令和 7 年 7 月 1 日の時点で、都道府県センター 47、保健所設置市区センター 79、二次医療圏センター 264 の計 390 か所です(医療安全支援センター総合支援事業(医療安全支援センター総合支援事業))。

図 7-2 医療安全支援センターの相談受付件数(令和 6 年度。4 つの区分と、苦情と相談の内訳)
020,00040,00060,000都道府県センター56,262保健所設置市区センター55,051二次医療圏センター8,463保健所設置市区(相談窓口のみ)10,056苦情 26.8%相談 71.9%その他合計 129,832 件(2024 年 4 月〜2025 年 3 月)。1 件の相談を複数回受け付けた場合も数える。設置は 390 か所(令和 7 年 7 月 1 日)。出典: 医療安全支援センター総合支援事業「令和 6 年度の相談件数について」(2025 年 11 月 30 日)。

出典: 医療安全支援センター総合支援事業「令和 6 年度の相談件数について」2025 年 11 月 30 日(医療安全支援センター総合支援事業)

令和 6 年度(2024 年 4 月〜2025 年 3 月)の受付は、都道府県センター 56,262 件、保健所設置市区センター 55,051 件、二次医療圏センター 8,463 件、相談窓口だけを置く保健所設置市区 10,056 件で、合計 129,832 件です。
内訳は「苦情」が 34,759 件(26.8%)、「相談」が 93,298 件(71.9%)です。
受付の内容の分類は、医療行為や医療内容、コミュニケーション、医療情報の取扱い、施設と設備、医療機関の紹介、医療費、医療知識、福祉と介護などで、都道府県センターでは医療行為や医療内容が 10,532 件、コミュニケーションが 7,056 件でした。
1 件の相談を複数回受け付けた場合も件数に数えるので、人数とは違います。

この数字は、病院の側から見ると、院内の窓口で受け止めきれなかった声がどこへ行くかを示しています。
傾聴後の対応には、問題点の整理と説明、他の機関の紹介、医療機関への連絡、立入検査の部門への引継ぎがあり、医療事故調査に関連した事例も少数ながら数えられています。
検討会の報告書は、医療安全支援センターが行う普及啓発の例示に医療事故調査制度を加えるべきだとし、機構の検証も医療安全支援センターと連携した周知を検討するとしています。

医療安全推進週間と、世界患者安全の日

11 月 25 日を含む 1 週間医療安全推進週間令和 8 年度11 月 22 日〜28 日ポスターとロゴ厚生労働省が配布取り組み記入用紙病院全体と部署ごと世界患者安全の日9 月 17 日

厚生労働省は 2001 年から、医療関係者の共同行動を「患者の安全を守るための医療関係者の共同行動」と名づけて医療安全対策を進めてきました。
その一環が、毎年度 11 月 25 日(「いい医療に向かって GO」)を含む 1 週間の医療安全推進週間です。
令和 8 年度は 11 月 22 日(日)から 28 日(土)です(医療安全推進週間(厚生労働省))。

週間には、ポスター、ロゴ、医療機関全体や部署ごとの取組を書く記入用紙が用意され、地方厚生局が医療安全のワークショップを開きます。
2001 年 9 月に公表された「安全な医療を提供するための 10 の要点」は、各医療機関が標語を作るときの参考に挙げられています。
9 月 17 日の世界患者安全の日(2019 年の WHO 総会で制定)も、厚生労働省が毎年ページを設けています。
院内の取組を患者に見える形にする節目として、この 2 つが使えます。

管理者の判断と、体制のイメージ

重大な事象が起きたとき、組織としての対応を決めるのは管理者です。
報告書は、管理者が重大事象を把握した後の対応が制度上定められておらず、権限や責務が明確でなかったことを課題に挙げ、通知が次のように明確化しました。

管理者は、医療安全管理委員会から重大な事故の発生の報告を受けた場合には、当該診療の継続の可否の検討を含めて適切な対応を行うこと。

病院等における医療の安全を確保するための措置について ⑷⑤(厚生労働省PDF)

「診療の継続の可否」は、医療事故のときだけの判断ではありません。
サイバー攻撃や障害で電子カルテが止まったときに、救急や新患の受入れを続けるか制限するかも、同じ管理者の判断です。
公表された調査報告書は、その判断を医療安全を最優先した判断として記録しています(サイバーセキュリティ講座 第 5 章)。
医療安全管理委員会と医療情報システム安全管理責任者が同じ机で BCP を見ておくことが、第 1 章で触れた 2 つの義務を 1 つの判断につなぎます。

図 7-3 医療安全管理体制のイメージ。管理者、委員会、医療安全管理部門と医療安全管理者、各部署の推進担当者
管理者(院長)重大事象の報告を受け、診療の継続の可否を含めて対応医療安全管理責任者(副院長)特定機能病院のみ医療安全管理部門医療安全管理者など委員会の事務、連絡調整、対策の推進医療安全管理委員会各部署と部門の責任者で構成月 1 回程度。意思決定医薬品と医療機器の安全管理責任者医薬品安全管理責任者医療機器安全管理責任者各部署の医療安全推進担当者対策の周知と実装の実務。部署単位で推進個々の職員報告し、学び、改善策を実践するあくまでイメージ。個々の医療機関の状況に応じて必要な体制を構築する。出典: 検討会 報告書 補足資料 8 ページ。

出典: 医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書 補足資料 8 ページ(厚生労働省PDF)を元に作成

特定機能病院の4 つの仕組み医療安全管理責任者副院長全入院患者の死亡の報告医療安全管理部門へ専従の 3 職種の部門医師、薬剤師、看護師相互の立入り年 1 回以上

報告書の補足資料は、管理者の下に医療安全管理部門(医療安全管理者)と医療安全管理委員会が並び、各部署に医療安全推進担当者がいて、個々の職員につながる体制のイメージを示しています。
医療安全管理責任者(副院長)は特定機能病院だけに配置されます。
イメージは例で、個々の医療機関の状況に応じて必要な体制を構築することとされています。

特定機能病院には、2016 年の省令改正で、全入院患者の死亡を医療安全管理部門に報告させる仕組み、医療安全管理責任者、専従の医師と薬剤師と看護師の部門、特定機能病院同士の年 1 回以上の相互の立入りが義務づけられました(医療法施行規則第 9 条の 20 の 2)。
中小の病院がそのまま真似るものではありませんが、全死亡の把握と外部からの評価は、2026 年 4 月の見直しが病院一般に求めた方向と同じです。
報告書は、規模の違う医療機関が参加する地域のネットワークと、相互評価の推進を求めています。

2026 年 4 月の通知に、自院の指針を当てる

ここまでの 6 章を、自院の指針の見直しに落とします。
2026 年 3 月 31 日の通知は 2007 年の通知を置き換えたもので、通知の末尾には新旧の対照表が付いています。
指針の見直しで足すものは、次の 6 点に整理できます。

図 7-4 2026 年 4 月の通知で、自院の指針に足すもの 6 点
1報告すべき事例の範囲別表 1 を含める、別表 2 を努める。各病院で定める基準第 5 章2医療事故の判断のプロセス全死亡・死産の把握、抽出、支援、管理者の判断。遺族の申出への再判断第 2 章3記録判断の結果と理由と遺族への対応。研修の記録、議事録。保存期間第 2 章4医療安全管理者配置し、業務指針に沿って業務を決める。診療報酬との違いを整理第 1 章5研修職員研修は年 2 回程度。管理者等の制度の研修は 2029 年 4 月から義務第 3 章6患者との情報の共有と相談指針の閲覧の方法。相談窓口の担当、記録、委員会への報告第 7 章見直した指針は委員会で策定と変更をし、従業者に周知する。年に 1 回、医療安全推進週間などの節目に通知と照らし直す。

出典: 病院等における医療の安全を確保するための措置について(厚生労働省PDF)、医療法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う留意事項等について

  1. 1 報告すべき事例の範囲別表 1 の 12 事象を含める。
    別表 2 の 12 事象を含めるよう努める。
    重大な検査結果、大量出血、高線量被曝の基準を決める(第 5 章)。
  2. 2 医療事故の判断のプロセス全死亡・死産事例の把握、該当する可能性のある事例の抽出、支援を求める基準、管理者の判断までを書く。
    遺族からの申出への再判断と説明を含める(第 2 章)。
  3. 3 記録判断の結果、理由、遺族への対応の記録を作り、保存期間を定める。
    研修の実施内容と委員会の議事録も記録する(第 1 章、第 2 章)。
  4. 4 医療安全管理者配置し、業務を業務指針に沿って決める。
    診療報酬の医療安全管理者との違いを整理する(第 1 章、第 6 章)。
  5. 5 研修職員研修は年 2 回程度。
    管理者等の制度の研修は 2029 年 4 月から義務(第 2 章、第 3 章)。
  6. 6 患者との情報の共有と相談指針の閲覧の方法、相談窓口の担当と記録と委員会への報告の流れを書く(本章)。

見直した指針は、委員会で策定と変更を行い、従業者に周知します。
年に 1 回、医療安全推進週間などの節目に通知と照らし直すと、2029 年の研修の義務や次の診療報酬改定(2028 年 6 月)の変更を取りこぼしません。
講座の自己点検は、この 6 点を含む 20 項目を「ある」「ない」「分からない」で答える形にしています。

自院で確かめること

  • 患者相談窓口の担当者と、相談の記録、委員会への報告の流れが決まっているか。
  • 医療安全管理指針を、患者が閲覧できるようにしているか(掲示、ウェブサイト、窓口)。
  • 医療安全推進週間などに院内の取組を患者に示しているか。
    相談窓口の担当者が、都道府県等の医療安全支援センターの役割を知っているか。

講座はここまでです。
自院の体制を 20 項目で点検するには自己点検を、別表 1 と 2 の 24 事象を引くには重大事象の早見を、言葉を確かめるには用語集を使ってください。

この章の一次資料

  • 医療法 第 6 条の 13(e-Gov 法令)、医療法施行規則 第 9 条の 20 の 2(e-Gov 法令)
  • 病院等における医療の安全を確保するための措置について 医政発 0331 第 72 号 2026 年 3 月 31 日。
    ⑴⑥⑦、⑷⑤、新旧対照表(厚生労働省PDF)
  • 基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて 第 20、第 21 の 2(厚生労働省PDF)
  • 医療安全支援センター総合支援事業 設置状況(令和 7 年 7 月 1 日)、令和 6 年度の相談件数について 2025 年 11 月 30 日(医療安全支援センター総合支援事業)
  • 令和 8 年度 医療安全推進週間(厚生労働省)
  • 医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書 6〜8 ページ、16〜17 ページ、19 ページ(厚生労働省PDF)、同 補足資料 7〜8 ページ(厚生労働省PDF)

制度や数値は掲載時点の情報です。最新の内容は所管の原文でご確認ください。 個別の事案への対応は事情で異なります。判断に迷うときは、都道府県の医療事故調査等支援団体か医療事故調査・支援センターへご相談ください。 内容の誤りは訂正受付窓口からお知らせください。