第1章 医療安全は、すべての病院の義務です

執筆者/監修

病院ドック編集部

病院ドック運営(株式会社ウェブリク)

病院ドックを運営する株式会社ウェブリクの編集部が、病院の運営にかかわる制度と行政の仕組みを、公的資料をもとに要点をしぼって解説します。

一般の方の目線で医療を分かりやすく伝えることを目指しています。

医療事故が起きたとき、病院は何をしなければならないのでしょうか。
この問いに答えるには、事故が起きる前に病院が整えておくべき体制から見ていく必要があります。
医療法は 2007 年から、すべての病院、診療所、助産所の管理者に、医療の安全を確保するための措置を義務づけてきました。
2015 年には医療事故調査制度が始まり、2026 年 4 月には施行 10 年の初めての見直しが省令と通知に入りました。
この章では、その条文と経緯、体制の 4 本柱、そして 2026 年 4 月に加わった 2 つを見ていきます。

医療法が義務づけていること

医療安全の根拠は、医療法第 6 条の 12 です。
短い条文ですが、主語は病院等の管理者で、文末は「講じなければならない」です。
勤務環境改善の努力義務(「努めなければならない」)とは違い、守らなければならない義務です。

病院等の管理者は、前二条に規定するもののほか、厚生労働省令で定めるところにより、医療の安全を確保するための指針の策定、従業者に対する研修の実施その他の当該病院等における医療の安全を確保するための措置を講じなければならない。

医療法 第 6 条の 12(e-Gov 法令)

「前二条」とは、第 6 条の 10(医療事故の報告)と第 6 条の 11(医療事故調査)のことで、これが医療事故調査制度の条文です(第 2 章)。
つまり医療法の「医療の安全の確保」の章は、死亡事例の報告と調査を定めた 2 つの条文と、日頃の体制を定めた第 6 条の 12 で組み立てられています。
その前後には、国と都道府県の責務(第 6 条の 9)と、都道府県等が置く医療安全支援センター(第 6 条の 13。
第 7 章)があります。

図 1-1 医療法の「医療の安全の確保」の章。病院、国と都道府県、第三者機関の関係
病院等の管理者第 6 条の 12 安全管理の体制(義務)第 6 条の 10 医療事故の報告第 6 条の 11 調査と遺族への説明国と都道府県等第 6 条の 9 情報提供と研修(努力義務)第 6 条の 13 医療安全支援センター(患者の苦情と相談。第 7 章)医療事故調査・支援センター第 6 条の 15 厚生労働大臣の指定第 6 条の 16 分析、研修、相談、啓発第 6 条の 17 センター調査(第 3 章)報告(第 6 条の 10、第 6 条の 11 第 4 項)、相談、センター調査の依頼第 6 条の 12 の「厚生労働省令で定めるところ」と、その通知施行規則 第 1 条の 11指針、委員会、研修、改善方策(4 本柱)+ 医療安全管理者、記録(2026 年 4 月)施行規則 第 1 条の 10 の 3〜5遺族への説明、調査の手法、支援団体の協議会施行規則 第 1 条の 10 の 6判断に携わる者の研修(2029 年 4 月 1 日施行)医政発 0331 第 72 号2026 年 3 月 31 日。指針の 8 項目、委員会は月 1 回程度、研修は年 2 回程度、別表 1 と 2医政地発 0213 第 3 号2026 年 2 月 13 日。把握すべき重大事象の類型化(A〜C 類型、別表 1 と 2)条文は e-Gov 法令検索の医療法と医療法施行規則(2026 年 10 月 11 日取得)。

出典: 医療法 第 6 条の 9〜第 6 条の 27(e-Gov 法令)

  • 病院等の管理者医療の安全を確保するための措置を講じる(第 6 条の 12)。
    医療事故が発生したらセンターに報告し、調査し、遺族に説明する(第 6 条の 10、第 6 条の 11)。
    義務
  • 国と都道府県等医療の安全に関する情報の提供、研修、意識の啓発に努める(第 6 条の 9)。
    都道府県等は患者の苦情と相談に応じる医療安全支援センターを設けるよう努める(第 6 条の 13)。
    努力義務
  • 医療事故調査・支援センター厚生労働大臣が指定する第三者機関(第 6 条の 15)。
    報告の整理と分析、センター調査、研修、相談、再発防止の普及啓発(第 6 条の 16)。
    第 3 章

対象は、すべての病院と診療所と助産所

医療法 第 6 条の 12対象はすべての病院等病院6 つの体制のすべて有床の診療所、入所施設のある助産所委員会と医療安全管理者も無床の診療所、助産所委員会と管理者の配置は無し義務努力義務ではない

第 6 条の 12 の対象は「病院等」、つまり病院、診療所、助産所のすべてです。
病床の数や開設者で区別はありません。
ただし、施行規則が定める体制のうち、医療安全管理委員会と医療安全管理者の 2 つは、病院と、患者を入院させるための施設を有する診療所と、入所施設を有する助産所に限られます。
無床の診療所には委員会と医療安全管理者の義務はなく、管理者が報告を受け、外部の研修を受けることでよいとされています。

病院の事務長にとっては、自院が義務のすべての対象だと押さえておけば足ります。
20 床以上の病院は、指針、委員会、研修、改善方策、医療安全管理者、記録のすべてを整えます。

2002 年の総合対策から、2026 年の見直しまで

医療安全の仕組みは、国内で起きた複数の重大な事故をきっかけに作られました。
厚生労働省は 2001 年に医療安全推進室を置き、2002 年に「医療安全推進総合対策」をまとめました。
総合対策は医療安全を医療政策上最も重要な課題と位置づけ、7 つの課題を示しました(医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書(厚生労働省PDF)2 ページ)。

  1. 2001 年厚生労働省に医療安全推進室。
    10 月にヒヤリ・ハット事例収集事業が始まる
  2. 2002 年 4 月医療安全推進総合対策。
    ①医療機関の体制整備、②有用な情報の提供、③医薬品と医療機器の安全、④教育研修、⑤患者の苦情と相談、⑥関係者を挙げての取組、⑦研究の 7 つの課題。
    病院と有床診療所に安全管理体制の確保を義務化
  3. 2004 年 10 月特定機能病院などに医療事故情報の報告義務(省令改正)。
    日本医療機能評価機構が医療事故情報収集等事業を始める(第 5 章)
  4. 2007 年 4 月第 5 次改正医療法の施行。
    無床の診療所と助産所を含むすべての病院等に医療安全管理体制の整備を義務づけ、都道府県に医療安全支援センターの設置を求める
  5. 2015 年 10 月医療事故調査制度の施行(第 2 章、第 3 章)。
    医療事故調査・支援センターの指定と、支援団体の告示は 8 月
  6. 2016 年 6 月特定機能病院の医療安全管理体制を強化。
    医療安全管理責任者、全入院患者の死亡の把握、特定機能病院同士の相互の立入り(ピアレビュー)
  7. 2025 年 6〜12 月医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会(5 回)。
    12 月 22 日に報告書
  8. 2026 年 4 月医療法施行規則の改正の施行。
    医療安全管理者の配置、記録の整備、医療事故の判断のプロセスと重大事象の範囲を通知で示す。
    6 月に医療安全対策加算の見直し(第 6 章)
  9. 2029 年 4 月医療事故の判断に携わる者の研修の義務の施行(第 2 章)
図 1-2 医療安全の仕組みの経緯。2001 年から 2029 年まで
2001医療安全推進室ヒヤリ・ハット事業2002医療安全推進総合対策7 つの課題2004特定機能病院などに事故情報の報告義務2007すべての病院等に体制の確保を義務化2015医療事故調査制度10 月に施行2016特定機能病院の体制を強化2025検討会(5 回)と報告書(12 月)2026省令改正の施行加算の見直し(6 月)2029判断に携わる者の研修の義務(4 月)2007 年の「体制の義務」と 2015 年の「医療事故調査制度」が、2026 年 4 月の見直しで 1 つの指針につながった次の節目は 2029 年 4 月の研修の義務と、2028 年 6 月の診療報酬改定

出典: 医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書 2〜4 ページ、開催要綱(厚生労働省PDF)、医療事故調査制度の概要について(厚生労働省PDF)

報告書は、医療安全の基本的な考え方を「安全文化」の醸成と定着、そしてシステム全体の安全性の向上だと書いています。
個々の職員の注意に頼るのではなく、組織の仕組みで安全を高める考え方です。
高齢化と多疾患併存の増加で患者のリスクが高まっていることにも触れ、医療安全の継続的な向上が重要だとしています(報告書 3 ページ)。

体制の 4 本柱と、2026 年 4 月に加わった 2 つ

第 6 条の 12 が「厚生労働省令で定めるところにより」としている省令が、医療法施行規則第 1 条の 11 です。
第 1 項は、管理者が確保しなければならない体制を 6 つの号で挙げています。
2026 年 3 月までは 4 つで、4 月 1 日から第 5 号と第 6 号が加わりました(医療法施行規則の一部を改正する省令。
令和 8 年厚生労働省令第 27 号)。

  1. 1 指針医療に係る安全管理のための指針を整備する。
    通知が示す 8 項目を文書化し、従業者に周知する。
  2. 2 委員会医療安全管理委員会を設置し、重大な問題の原因の調査と分析、改善方策の立案と実施と周知、実施状況の調査と見直しを行わせる。
    有床の病院等だけ。
  3. 3 研修従業者の意識、連携の認識、技能の向上を目的に、安全管理の基本的な事項と具体的な方策の職員研修を実施する。
  4. 4 改善方策医療機関内の事故報告等の、安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずる。
  5. 5 医療安全管理者(2026 年 4 月)安全管理について知識を備え、責任をもって業務を行う者を配置し、委員会の業務の支援、研修の実施、改善方策の実施に必要な業務を行わせる。
    有床の病院等だけ。
  6. 6 記録(2026 年 4 月)医療に係る安全管理に関する記録を整備する。
図 1-3 医療安全管理体制の 4 本柱と、2026 年 4 月に加わった 2 つ
医療の安全を確保するための措置(医療法 第 6 条の 12。すべての病院等の管理者の義務)1 指針8 項目を文書化委員会で策定と変更従業者に周知2 委員会月 1 回程度原因の分析と改善方策管理者へ報告3 研修年 2 回程度事例を取り上げ職種横断記録を残す4 改善方策事故報告等を収集し分析改善策を立案し実施実施状況を見直す5 医療安全管理者(2026 年 4 月〜)常勤職員。資格は問わない。有床の病院等に配置委員会の支援、研修の実施、改善方策の業務6 記録の整備(2026 年 4 月〜)医療事故の判断の結果、理由、遺族への対応研修の実施内容、委員会の議事録第 2 項の措置院内感染対策、医薬品安全管理責任者、医療機器安全管理責任者、診療用放射線の責任者、高難度新規医療技術(努力義務)出典: 医療法施行規則 第 1 条の 11、病院等における医療の安全を確保するための措置について(2026 年 3 月 31 日)。

出典: 医療法施行規則 第 1 条の 11(e-Gov 法令)、病院等における医療の安全を確保するための措置について(厚生労働省PDF)

第 2 項には、院内感染対策、医薬品安全管理責任者、医療機器安全管理責任者、診療用放射線の安全管理の責任者、高難度新規医療技術と未承認新規医薬品等の措置が並びます。
どれも医療安全管理体制の一部ですが、この講座では位置づけだけを書き、各論には立ち入りません。

体制の細目は、2026 年 3 月 31 日の厚生労働省医政局長通知「病院等における医療の安全を確保するための措置について」(医政発 0331 第 72 号)が示しています。
2007 年の通知を置き換えたもので、主な数字は次のとおりです。

  • 委員会の開催月 1回程度重大な問題が発生したら適宜
  • 職員研修年 2回程度日時、出席者、項目を記録
  • 指針に書く項目8項目基本的考え方から相談への対応まで

指針の 8 項目は、①基本的考え方、②委員会その他の組織、③研修の基本方針、④事故報告等の改善方策の基本方針、⑤医療事故等発生時の対応の基本方針、⑥医療従事者と患者との情報の共有(指針の閲覧を含む)、⑦患者からの相談への対応、⑧その他です。
このうち ⑤ が、2026 年 4 月の見直しで最も厚くなった項目です。
委員会に報告すべき事例の範囲に別表 1 の 12 事象を含めること(第 5 章)、死亡・死産事例から医療事故に該当する可能性のある事例を抽出し判断するまでのプロセス(第 2 章)、その記録、を指針に書くことになりました。

医療安全と並ぶ、もう 1 つの管理者の義務

医療法施行規則には、医療安全管理体制とは別の条に、管理者のもう 1 つの義務があります。
2023 年 4 月 1 日に第 14 条に加わった第 2 項です。

病院、診療所又は助産所の管理者は、医療の提供に著しい支障を及ぼすおそれがないように、サイバーセキュリティを確保するために必要な措置を講じなければならない。

医療法施行規則 第 14 条第 2 項(e-Gov 法令)

管理者の 2 つの義務医療安全とサイバー医療法 第 6 条の 12医療安全管理体制施行規則 第 1 条の 11指針、委員会、研修、改善方策医療法 第 17 条サイバーセキュリティの確保施行規則 第 14 条第 2 項医療の提供に支障を及ぼさない立入検査の「管理」の項2-10 と 2-19 が並ぶ

この項は、管理者が構造設備や医薬品の管理について守るべき事項を省令に委ねた医療法第 17 条に基づいていて、第 6 条の 12 の医療安全管理体制とは法の系統が違います。
けれども条文の目的は「医療の提供に著しい支障を及ぼさない」ことで、医療安全管理体制と同じ、医療を止めないための義務です。
令和 8 年度の立入検査要綱では、同じ「管理」の項に 2-10「医療の安全管理のための体制の確保」と 2-19「サイバーセキュリティの確保」が並びます。
2-19 では、厚生労働省のサイバーセキュリティ対策チェックリストに必要な事項が記入されていることと、連絡体制図の有無を確認されます(令和 8 年度 医療法第 25 条第 1 項の規定に基づく立入検査要綱(厚生労働省PDF))。

医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第 7.0 版(2026 年 6 月)の経営管理編は、「情報セキュリティインシデントが起きた場合、医療の提供が停止し、患者の生命・身体に影響を与える可能性がある」と書いています(経営管理編(厚生労働省PDF))。
電子カルテが止まれば、処方の確認も検査結果の伝達も紙と口頭に替わり、第 5 章で見る重大事象が起きやすくなります。

サイバーセキュリティの確保を情報システムの担当者だけの仕事にせず、医療安全管理委員会が止まったときの手順を知っていることが、2 つの義務をつなぐ要です。
義務の中身であるチェックリスト 19 項目と、止まったときの診療の続け方は、病院のサイバーセキュリティ講座の第 1 章と第 5 章が解説しています。

医療安全管理者という役割

2026 年 4 月 1 日施行省令改正の 3 点① 医療安全管理者有床の病院等に配置。資格は問わない② 記録の整備すべての病院等③ 判断に携わる者の研修2029 年 4 月 1 日から通知で示したもの指針の 8 項目、別表 1 と 2

2026 年 4 月に加わった医療安全管理者は、新しい役割ではありません。
2002 年の総合対策が配置の必要を指摘し、診療報酬の医療安全対策加算が施設基準にしてきたので、報告書によれば令和 7 年 8 月の時点で約 95% の病院にすでに置かれています。
ただ、医療法の制度上の位置づけが無かったために、役割や責務を設定しづらいことや、育成が進まない要因になっていることが課題とされていました(報告書 6 ページ)。

省令の医療安全管理者は、医療に係る安全管理について十分な知識を有する常勤職員であることが要件で、医療関連資格の有無は問いません。
事務職員が担うこともできます。
病院では管理者(院長)との兼務はできませんが、医薬品安全管理責任者など他の役職との兼務はできます(医療法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う留意事項等について。
2026 年 3 月 31 日。
厚生労働省の法令・通知の一覧)。

業務は、厚生労働省の「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」(令和 2 年 3 月改定)を参考に、病院の状況に応じて決めます。
指針に沿った研修の受講が望ましいとされ、無資格の職員が就くときは、基本的知識と体制の構築をあらかじめ学ぶことも想定されています。

診療報酬の医療安全対策加算にも「医療安全管理者」があります。
こちらは研修を受けた看護師や薬剤師などの有資格者で、加算 1 は専従、加算 2 は専任です。
名前が同じで要件が違うので、第 6 章で 2 つを並べて整理します。

自院で確かめること

  • 医療安全管理指針が文書になっていて、通知の 8 項目(基本的考え方、組織、研修、改善方策、事故発生時の対応、患者との情報共有、相談、その他)を含んでいるか。
  • 医療安全管理委員会が規程をもって月 1 回程度開かれ、重要な検討内容を患者への対応状況を含めて管理者に報告しているか。
  • 職員研修が年 2 回程度あり、日時、出席者、項目の記録が残っているか。
    医療安全管理者を配置し、業務を決めているか。
  • 電子カルテなどが止まったときに診療を続ける手順(BCP)があり、医療安全管理委員会がその手順を知っているか。

医療事故が起きたときの報告と調査は、医療事故調査制度の仕組みです。
第 2 章で、「医療事故」の定義と判断のプロセスを見ます。

この章の一次資料

  • 医療法 第 6 条の 9〜第 6 条の 27(e-Gov 法令)
  • 医療法施行規則 第 1 条の 11(e-Gov 法令)
  • 病院等における医療の安全を確保するための措置について 医政発 0331 第 72 号 2026 年 3 月 31 日(厚生労働省PDF)
  • 医療法施行規則の一部を改正する省令の公布等について(医政発 0319 第 1 号 2026 年 3 月 19 日)、同 施行に伴う留意事項等について(医政地発 0331 第 1 号 2026 年 3 月 31 日)。
    法令・通知等(医療安全対策)(厚生労働省)
  • 医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書 2025 年 12 月 22 日(厚生労働省PDF)、同 補足資料(厚生労働省PDF)
  • 医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針の改定について 医政安発 0326 第 1 号 2020 年 3 月 26 日(厚生労働省PDF)

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