第2章 「医療事故」を判断し、報告する

執筆者/監修

病院ドック編集部

病院ドック運営(株式会社ウェブリク)

病院ドックを運営する株式会社ウェブリクの編集部が、病院の運営にかかわる制度と行政の仕組みを、公的資料をもとに要点をしぼって解説します。

一般の方の目線で医療を分かりやすく伝えることを目指しています。

入院していた患者が亡くなった。
その死亡を医療事故調査・支援センターに報告すべきかどうかは、誰がどう決めるのでしょうか。
医療事故調査制度は 2015 年 10 月から、この判断を病院等の管理者に委ねてきました。
2026 年 4 月の省令改正と通知は、判断に至るプロセスを指針に書き、記録を残すことを求めています。
この章では、「医療事故」の定義、報告と調査の流れ、2026 年 4 月から指針に書くプロセス、そして 2029 年からの研修を見ていきます。

医療法の「医療事故」は、予期しなかった死亡と死産

制度の対象は、医療法第 6 条の 10 が定義する「医療事故」です。
一般に思い浮かべる医療事故よりも狭く、死亡と死産に限られます。

病院、診療所又は助産所(以下この章において「病院等」という。)の管理者は、医療事故(当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるものをいう。
以下この章において同じ。)が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、当該医療事故の日時、場所及び状況その他厚生労働省令で定める事項を第六条の十五第一項の医療事故調査・支援センターに報告しなければならない。

医療法 第 6 条の 10 第 1 項(e-Gov 法令)

図 2-1 医療事故調査制度の「医療事故」の 3 つの要件
① 医療に起因する病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産過誤の有無は要件ではない② 死亡または死産生存した事例、後遺障害が残った事例は対象外(院内の報告と学習の仕組みで扱う)③ 管理者が予期しなかった提供前に患者等に説明していた診療録等に記録していた従業者の聴取と委員会で予期と認めたのいずれにも当たらないもの3 つがそろったら、管理者はセンターに報告し、院内調査を行い、遺族に説明する(医療法 第 6 条の 10、第 6 条の 11)判断するのは管理者。迷ったら支援団体かセンターに相談できる(センター合議)。判断の結果と理由を記録する(2026 年 4 月〜)出典: 医療法 第 6 条の 10、医療法施行規則、医療事故調査制度の概要について(厚生労働省 医療安全推進室)。

出典: 医療法 第 6 条の 10、医療法施行規則(e-Gov 法令)、医療事故調査制度の概要について(厚生労働省PDF)

  • ① 医療に起因する、または起因すると疑われる病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因するもの。
    疑いを含む。
    過誤があったかどうかは要件ではない。
    第 6 条の 10
  • ② 死亡または死産生存した事例、後遺障害が残った事例は対象外。
    対象外の事例は院内の報告と学習の仕組み(第 5 章)で扱う。
    第 6 条の 10
  • ③ 管理者が予期しなかった医療の提供前に死亡が予期されることを患者等に説明していた、診療録等に記録していた、従業者からの聴取と委員会の意見で予期されていたと認めた、のいずれにも当たらないもの。施行規則

③ の「予期」は、病名や重症度からの一般的な予期ではなく、その患者について医療の提供前に説明や記録があったかどうかで判断します。
日頃の説明と診療録の記載が、そのまま判断の材料になります。
「医療過誤」という言葉は条文にありません。
過誤の有無を問わず、予期しなかった死亡をセンターに報告し、原因を調べて再発防止につなげるのが制度の目的です。
報告書は、「医療事故」という言葉から一般に想起される事例と医療法の定義の差が認識の齟齬を生んでいると指摘しています(医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書(厚生労働省PDF)14 ページ)。

① の「医療に起因する」に含まれないものも、国の資料で整理されています。
制度開始時の通知は、火災や地震、落雷などの施設管理に関連するもの、併発症、原病の進行、自殺などを、医療に起因する死亡に含まれない例として挙げています(医療事故調査制度について(厚生労働省PDF)3 ページ)。
サイバー攻撃や医療情報システムの障害で診療が止まったことに関わる死亡をどう扱うかは、2026 年 10 月の時点で国もセンターも示していません。
講座が該当する、しないを決めることはできません。
個々の事例の判断は管理者が行い、迷えば支援団体とセンターに相談します(第 3 章)。
システムの障害を医療安全の側からどう扱うかは、第 5 章で触れます。

報告、調査、説明の流れ

医療事故に該当すると管理者が判断したあとの流れは、医療法第 6 条の 10 と第 6 条の 11 に書かれています。

図 2-2 医療事故調査制度の流れ。医療機関、遺族、支援団体、センター
病院等の管理者医療事故の判断院内調査遺族への説明医療事故調査・支援センター発生報告と結果報告を受ける整理と分析、再発防止の提言センター調査(依頼があれば)遺族説明を受けるセンターに相談と調査の依頼医療事故調査等支援団体判断の助言、院内調査の支援解剖と Ai、外部委員の派遣① 発生報告 → ④ 院内調査の結果報告分析の結果の報告、センター合議の助言、伝達説明(報告の前と、調査のあと)相談、センター調査の依頼支援を求める(第 6 条の 11 第 2 項)。支援団体は支援を行うものとするセンターは支援団体に研修を行い、業務の一部を委託できる

出典: 医療法 第 6 条の 10〜第 6 条の 17、医療事故調査制度の概要について(厚生労働省PDF)

  1. 1 遺族への説明報告の前に、医療事故の日時と場所と状況、調査の実施計画の概要、制度の概要、解剖または死亡時画像診断(Ai)の同意について説明する。
    遺族は死亡した者の遺族、死産した胎児の父母と祖父母。
  2. 2 センターへの発生報告遅滞なく、日時、場所、状況などをセンターに報告する。
  3. 3 院内調査速やかに原因を明らかにするために必要な調査を行う。
    支援団体に必要な支援を求めるものとする(第 3 章)。
  4. 4 遺族への説明とセンターへの結果報告調査を終えたら遺族に説明し、医療従事者が識別できないように加工した報告書をセンターに報告する。
  5. 5 センター調査(依頼があれば)管理者または遺族から依頼があれば、センターが調査し、結果を両方に報告する。
施行規則 第 1 条の 10 の 4院内調査の 7 つの手法診療録等の確認必要な範囲で選ぶ医療従事者と関係者からの聴取遺族からの聴取も考慮解剖、死亡時画像診断(Ai)同意の取得が要る医薬品、機器、設備の確認血液や尿の検査も

院内調査の手法は施行規則第 1 条の 10 の 4 にあり、診療録その他の記録の確認、医療従事者からの事情の聴取、その他の関係者からの聴取、解剖、死亡時画像診断、医薬品や医療機器や設備の確認、血液や尿などの検査の 7 つから、調査を適切に行うために必要な範囲で選びます。
すべてを行わなければならないのではありません。

センターへの結果の報告書には、日時と場所と診療科、病院等の名称と管理者、患者の性別と年齢、調査の項目と手法と結果を書き、医療従事者等が識別できないように加工します。
報告書は、調査の進め方には定めが無く、院内調査の質にばらつきがあると指摘し、支援団体の指針や研修の充実を求めています(報告書 11 ページ)。

2026 年 4 月から指針に書く、判断のプロセス

制度の 10 年で最も指摘されたのは、報告すべき医療事故が適切に報告されていないのではないか、という点でした。
患者団体からの指摘に加え、人口で補正した都道府県別の件数や同じ規模の病院の間の報告数のばらつきが検討会で挙がりました(報告書 9〜10 ページ)。
報告書は、全死亡例をスクリーニングする体制と、疑われる事例を検討する会議、各プロセスの記録の重要性を挙げ、これを受けて 2026 年 3 月 31 日の通知が、指針の「医療事故等発生時の対応の基本方針」に次を書くことを求めました。

当該病院等において管理者が把握した死亡・死産事例について、医療法第6条の 10 第1項に規定する医療事故に該当する可能性のある事例を抽出し、必要に応じて同法第6条の 15 に規定する医療事故調査・支援センターや同法第6条の 11 第2項に規定する医療事故調査等支援団体に支援を求め、最終的にその該当性を判断するまでのプロセスについて記載すること。

病院等における医療の安全を確保するための措置について ⑴⑤イ(厚生労働省PDF)

図 2-3 医療事故を判断するプロセスの例(通知の別添 1 の例 ② を元に)
診療部門全死亡・死産事例を院内報告様式やチェックシート。疑われる事例は緊急連絡ルートで記録の例スクリーニングシート、連絡様式医療安全管理部門スクリーニングと情報収集チェックシートで要件に当たる事例を抽出。事実確認、関係者のヒアリング。必要なら支援団体やセンターに相談記録の例レビュー記録、カンファレンス記録、助言の内容該当性を判断する会議検討し、管理者に報告構成員、開催様式、開催基準を規定しておく記録の例議事録(検討結果と理由)管理者最終的に判断する該当すれば遺族に説明し、センターに報告記録の例判断の結果と理由遺族等からの申出、センターからの伝達改めて該当性を判断し、結果を遺族等に説明する。検討した結果、理由、説明の内容を記録通知の別添 1「医療事故を判断するプロセスの例 ②」を元に。例 ① は小さい病院向けで、管理者が定期的に直近の死亡事例を振り返る。例は参考で、各医療機関の実情に応じて一部を省略、追加、あるいは全く異なるプロセスを整備して差し支えない(通知)。

出典: 病院等における医療の安全を確保するための措置について 別添 1「医療事故を判断するプロセスの例 ①②」(厚生労働省PDF)

通知の別添 1 は、プロセスの例を 2 つ示しています。
例 ① は小さい病院向けで、管理者が疑う事案を把握したら判断するほか、定期的に直近の死亡事例を診療録から振り返って該当するかを判断する形です。
例 ② は医療安全管理部門のある病院向けで、診療部門が全死亡・死産事例を様式で院内報告し、部門がチェックシートでスクリーニングして追加情報を集め、該当性を判断する会議が検討して管理者に報告し、管理者が最終判断する形です。
どちらも参考例で、通知は「一部を省略、追加、あるいは全く異なるプロセスを整備して差し支えない」と書いています。

プロセスには、もう 1 つ含めるものがあります。
遺族等から「医療事故ではないか」と申出があった場合(センターから相談の内容を伝達された場合を含む)に、改めて該当性を判断し、その結果を遺族等に説明するプロセスです。
報告書は、遺族からの申出やセンターからの伝達に対する医療機関の説明が不十分だと遺族が受け止める事例が散見されると指摘していました(報告書 10 ページ)。
申出を受け付ける窓口と院内の検討方針を決め、指針に書きます。

報告の前に遺族へ説明施行規則の 4 項目日時、場所、状況医療事故の事実調査の実施計画の概要何をどう調べるか制度の概要センターの役割を含む解剖と Ai の同意必要があるとき遺族の範囲死産の胎児の父母と祖父母も

記録も義務になりました。
該当性の判断について、判断の結果、判断理由、遺族等への対応等に関する記録を作成し、各文書の性質に応じて病院が適切な期間を定めて保存します。
施行規則第 1 条の 11 第 1 項第 6 号の「医療に係る安全管理に関する記録」の 1 つです。

通知が挙げる記録の例は、スクリーニングシート、医療安全管理者等によるレビューの記録、死亡事例検討カンファレンスの記録、該当性を判断する会議の議事録(検討結果と理由が記載されているもの)、管理者による判断の結果と理由、支援団体やセンターからの助言の内容、遺族等の申出に対して検討した結果と理由と説明の内容です。
事後に検証できることが目的なので、「判断しなかった理由」も残す形になります。

2029 年 4 月からの研修

判断が適切に行われるには、判断する管理者が制度を理解している必要があります。
通知等で管理者の研修の受講が推奨されてきましたが、厚生労働科学研究のアンケートでは、管理者が制度の研修を受講している割合は回答した医療機関の 4 割弱でした(報告書 10 ページ)。
そこで省令に第 1 条の 10 の 6「医療事故に係る適切な対応に関する研修」が新設され、2029 年 4 月 1 日から施行されます。

  • 対象病院(手術や分娩の件数にかかわらず)。
    全身麻酔手術または分娩の合計が年 120 件以上の有床の診療所と、分娩を行う入所施設のある助産所。
    施行規則 第 1 条の 10 の 6、留意事項の通知 第 1
  • だれが管理者自らの受講が望ましい。
    困難なら、副院長や部門の責任者など判断に携わる者でもよいが、その場合は管理者が受講者の意見を聴いて組織として判断する。
    定期的な受講が望ましい。
    留意事項の通知 第 1 の 2
  • どの研修センター、支援団体等連絡協議会、支援団体が「医療事故調査制度に関する管理者等研修プログラム作成指針」に沿って行う研修に限る。
    オンラインやオンデマンドでもよい。
    留意事項の通知 第 1 の 3
  • 期限と経過当該年度の翌年度末までに修了する。
    2026 年 4 月 1 日より前に受けた研修も、制度の内容を含むことがプログラム等で確認できれば受講したとみなす。
    留意事項の通知 第 1 の 1、3

研修の中身は、制度の理解に加えて、判断の演習が望ましいとされています。
センターが開いてきた管理者・実務者セミナーなど、これまでの研修も受講したとみなされる場合があるので、自院の管理者の受講歴を確かめるところから始められます(第 3 章)。

自院で確かめること

  • 管理者が自院の全死亡・死産事例を把握する仕組み(様式、チェックシート、定期的な振り返り)があるか。
  • 医療事故に該当するかを判断するプロセスと、遺族からの申出への再判断と説明のプロセスが指針に書いてあるか。
  • 判断の結果、理由、遺族への対応の記録を作り、保存期間を定めているか。

判断に迷ったときの相談先は、医療事故調査・支援センターと都道府県の支援団体です。
第 3 章で特集します。

この章の一次資料

  • 医療法 第 6 条の 10、第 6 条の 11(e-Gov 法令)
  • 医療法施行規則 第 1 条の 10 の 3〜第 1 条の 10 の 6、第 1 条の 11(e-Gov 法令)
  • 病院等における医療の安全を確保するための措置について 医政発 0331 第 72 号 2026 年 3 月 31 日。
    ⑴⑤、別添 1(厚生労働省PDF)
  • 医療法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う留意事項等について 医政地発 0331 第 1 号 2026 年 3 月 31 日。
    法令・通知等(医療安全対策)(厚生労働省)
  • 医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書 2025 年 12 月 22 日。
    9〜11 ページ、17〜18 ページ(厚生労働省PDF)
  • 医療事故調査制度の概要について(厚生労働省 医政局総務課 医療安全推進室)(厚生労働省PDF)

制度や数値は掲載時点の情報です。最新の内容は所管の原文でご確認ください。 個別の事案への対応は事情で異なります。判断に迷うときは、都道府県の医療事故調査等支援団体か医療事故調査・支援センターへご相談ください。 内容の誤りは訂正受付窓口からお知らせください。