第3章 医療事故調査・支援センターと支援団体という相談先

執筆者/監修

病院ドック編集部

病院ドック運営(株式会社ウェブリク)

病院ドックを運営する株式会社ウェブリクの編集部が、病院の運営にかかわる制度と行政の仕組みを、公的資料をもとに要点をしぼって解説します。

一般の方の目線で医療を分かりやすく伝えることを目指しています。

死亡事例が医療事故に当たるかどうか、院内だけで決めかねることがあります。
院内調査を始めるとしても、外部の委員や解剖の手配をどこに頼めばよいのか。
医療法は、そのために 2 つの相談先を用意しています。
厚生労働大臣が指定する第三者機関の医療事故調査・支援センターと、都道府県ごとの医療事故調査等支援団体です。
この章では、国の資料に書かれているセンターの業務と使われ方、支援団体の顔ぶれと協議会、そして制度 10 年の検証を特集します。

厚生労働大臣が指定する第三者機関

医療事故調査・支援センターは、医療法第 6 条の 15 に基づいて厚生労働大臣が指定します。
2015 年 8 月に一般社団法人 日本医療安全調査機構が指定され、10 月の制度の施行から業務を担ってきました。
業務は第 6 条の 16 に 7 つ並んでいます。

医療事故調査・支援センターは、次に掲げる業務を行うものとする。
一 第六条の十一第四項の規定による報告により収集した情報の整理及び分析を行うこと。
二 第六条の十一第四項の規定による報告をした病院等の管理者に対し、前号の情報の整理及び分析の結果の報告を行うこと。
三 次条第一項の調査を行うとともに、その結果を同項の管理者及び遺族に報告すること。
四 医療事故調査に従事する者に対し医療事故調査に係る知識及び技能に関する研修を行うこと。
五 医療事故調査の実施に関する相談に応じ、必要な情報の提供及び支援を行うこと。
六 医療事故の再発の防止に関する普及啓発を行うこと。
七 前各号に掲げるもののほか、医療の安全の確保を図るために必要な業務を行うこと。

医療法 第 6 条の 16(e-Gov 法令)

図 3-1 医療事故調査・支援センターの業務と、医療機関、遺族、支援団体との関係
医療事故調査・支援センター(一般社団法人 日本医療安全調査機構。医療法 第 6 条の 15 の指定)相談2025 年 2,161 件医療機関と遺族等からセンター合議74 件判断への助言報告の整理と分析発生報告 375 件結果報告 360 件センター調査依頼 41 件平均 876.5 日伝達35 件遺族等の求めで管理者へ提言と研修提言 第 22 号まで管理者・実務者セミナー第 6 条の 16 の 7 つの業務: 整理と分析、結果の報告、センター調査、研修、相談と支援、再発防止の普及啓発、その他病院等の管理者判断に迷えば相談、合議発生報告と結果報告遺族等相談、伝達の求めセンター調査の依頼医療事故調査等支援団体判断の助言、院内調査の支援累計の支援先 55.7%センター調査の対象は累計 314 件(発生報告の 8.6%)、報告書の交付 225 件。出典: 医療事故調査・支援センター 2025 年 年報(2026 年 10 月 11 日取得)、医療法 第 6 条の 15〜17。

出典: 医療法 第 6 条の 15〜第 6 条の 17、医療事故調査・支援センター 2025 年 年報(日本医療安全調査機構)

事務長が知っておきたいのは、センターが「報告を受ける先」であると同時に「相談する先」でもあることです。
2025 年の相談は 2,161 件で、前年の 2,043 件から増えました。
相談者は医療機関と遺族等の両方です。
遺族等からの相談の内容(重複計上)は 1,170 件で、最も多いのは「医療事故報告対象の判断」の 906 件でした(医療事故調査・支援センター 2025 年 年報(日本医療安全調査機構)要約版 5 ページ)。

センター合議という助言

医療事故に当たるかどうかの判断は管理者が行いますが、センターには判断を支援する仕組みがあります。
「センター合議」です。
医療機関からの相談を受け、センターの複数名の専門家(医師、薬剤師、看護師ら)が事例相談用紙の情報を元に合議し、結果を医療機関へ助言として伝えます。

図 3-2 センター合議の助言の内容と、医療機関の判断(2025 年の 74 件)
0 件10 件20 件30 件40 件「医療事故」として報告を推奨すると助言した2636 件複数の考え方を伝えた316 件「医療事故」としての報告対象とは考えにくいと助言した22 件医療事故として報告した報告していない(検討中を含む)累計では「報告を推奨」と助言した 382 件のうち報告されたのは 266 件(69.6%)。助言は助言で、判断は管理者が行う。「報告した」は 2026 年 1 月 31 日時点。出典: 年報 要約版 7 ページ、年報の概要。

出典: 医療事故調査・支援センター 2025 年 年報 要約版 7 ページ(日本医療安全調査機構)

2025 年のセンター合議は 74 件でした。
「医療事故として報告を推奨する」と助言した 36 件のうち、医療機関が報告したのは 26 件です。
「複数の考え方を伝えた」16 件のうち報告は 3 件、「報告対象とは考えにくい」と助言した 22 件のうち報告は 2 件でした。
制度開始からの累計では、報告を推奨した 382 件のうち報告されたのは 266 件、69.6% です(年報の概要)。
助言は助言で、最終的な判断は管理者にあるということです。

報告書は、センターに蓄積された合議の事例を検証し、一般化した情報を医療機関に提供するよう求めました(医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書(厚生労働省PDF)18 ページ)。
機構の 10 年の検証も、合議の議論を整理して管理者の参考になる情報を提供し、支援団体とも共有するとしています。
判断に迷う事例の「相場」が、今後は見えやすくなる見込みです。

センター調査と、遺族からの伝達

支援団体とセンターが病院を支援すること医療事故かどうかの判断助言。センター合議院内調査の運営進め方の支援、指針解剖と Ai施設や設備の提供を含む外部委員の派遣専門家を紹介報告書の作成相談と助言

センターに医療事故として報告された事例について、管理者または遺族から依頼があれば、センターは調査を行うことができます(医療法第 6 条の 17)。
管理者は、センターからの説明や資料の求めを拒んではならず、拒んだときはその旨を公表されることがあります。
2025 年のセンター調査の依頼は 41 件で、医療機関からが 13 件、遺族からが 28 件でした。
制度開始からの累計では、発生報告 3,633 件のうち 314 件(8.6%)がセンター調査の対象になり、報告書の交付は 225 件です。

センター調査は原則として院内調査の結果報告書を受け取ってから始まり、申請から報告書の交付まで、2025 年に交付した 37 件の平均で 876.5 日かかっています。
内訳は、手続き 158.8 日、部会の検討と報告書案の作成 648.4 日、総合調査委員会の審議 69.2 日です。
審議の期間は 2022 年以降短くなっていますが、報告書案の作成は横ばいで、機構は期間の短縮を課題に挙げています(年報 要約版 25 ページ)。

もう 1 つ、遺族の側から使える仕組みがあります。
遺族等がセンターに相談し、求めがあれば、センターは相談の内容等を病院等の管理者に伝達します(2016 年 6 月の厚生労働省医政局総務課長通知)。
2025 年の伝達は 35 件で、そのうち医療機関が医療事故として報告したのは 2 件でした。
2026 年 4 月からは、伝達を受けたときに改めて該当性を判断し、結果を遺族等に説明するプロセスを指針に書きます(第 2 章)。
センターは、伝達とセンター合議の対象になった事例について、遺族等への説明の状況や判断を任意で情報収集し、実態の把握に努めるとしています。

支援団体と、都道府県の協議会

院内調査を行うとき、管理者は医療事故調査等支援団体に必要な支援を求めるものとされています(医療法第 6 条の 11 第 2 項)。
支援団体は厚生労働大臣が告示で定めていて、2015 年 8 月の告示(平成 27 年厚生労働省告示第 343 号)を 2022 年 12 月に改正したものが最新です。
顔ぶれは 4 つに分けられます。

図 3-3 医療事故調査等支援団体の 4 つの顔ぶれ
職能団体日本医師会と都道府県医師会歯科医師会、薬剤師会看護協会、助産師会病院薬剤師会、技師会など病院団体等日本病院会、全日本病院協会日本医療法人協会日本精神科病院協会全国自治体病院協議会など病院事業者国立病院機構労働者健康安全機構、JCHO国立高度専門医療研究センター日本赤十字社、済生会、厚生連など学術団体日本医学会に属する学会日本歯科医学会日本医療薬学会看護系学会、医療の質・安全学会支援団体等連絡協議会: 中央に 1 か所、都道府県に 47 か所(施行規則 第 1 条の 10 の 5)報告と調査と支援の状況の情報共有、研修の実施、管理者への支援団体の紹介。都道府県では医師会がとりまとめていることが多い支援の内容: 医療事故かどうかの判断の助言、院内調査の運営の支援、解剖と死亡時画像診断の支援、外部委員の派遣、報告書の作成の相談。出典: 平成 27 年厚生労働省告示第 343 号(令和 4 年告示第 350 号で改正)、医療事故調査制度の概要について 13 ページ。

出典: 医療法第 6 条の 11 第 2 項の規定に基づき厚生労働大臣が定める団体(厚生労働省PDF)、医療事故調査制度の概要について 13 ページ(厚生労働省PDF)

  • 職能団体日本医師会と都道府県医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護協会、助産師会、病院薬剤師会、診療放射線技師会、臨床衛生検査技師会、臨床工学技士会。
  • 病院団体等日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会、全国自治体病院協議会、全国医学部長病院長会議と、その会員が代表者である病院。
    日本医療機能評価機構。
  • 病院事業者国立病院機構、労働者健康安全機構、地域医療機能推進機構、国立高度専門医療研究センター、日本赤十字社、済生会、厚生連、国家公務員共済組合連合会など。
  • 学術団体日本医学会に属する学会、日本歯科医学会、日本医療薬学会、日本看護系学会協議会の学会、医療の質・安全学会。

支援の内容は、医療事故かどうかの判断の助言、院内調査の運営の支援、解剖と死亡時画像診断の支援(施設や設備の提供を含む)、外部委員の派遣、報告書の作成の相談と助言です(厚生労働省の Q&A Q15(厚生労働省))。
年報によると、事故報告の判断で支援を受けた先は、累計で支援団体が 55.7%(405 件)、センターが 31.4%(228 件)です。
2025 年に限ると支援団体 24 件、センター 33 件と、センターに相談する医療機関が増えています。

支援団体は共同で協議会(支援団体等連絡協議会)を組織できます(施行規則第 1 条の 10 の 5)。
全国に 1 か所の中央協議会と、都道府県に 47 か所の地方協議会があり、報告と調査と支援の状況の情報共有、研修の実施、管理者への支援団体の紹介を行います。
都道府県では医師会がとりまとめていることが多く、自院の都道府県の窓口は都道府県医師会に尋ねるのが近道です。

報告書は、支援団体の課題も率直に書いています。
厚生労働科学研究の調査では、回答した支援団体の半数以上が支援の実績を持たず、支援できる人材が限られ特定の人に負担が偏る、他院の調査に労力が割かれ本来業務に支障が出る、との回答が多くありました(報告書 13 ページ)。
報告書は、支援団体の再整理、人材の育成、地方協議会が管内の支援団体の情報を把握する体制、支援団体から協議会と厚生労働省への定期的な情報共有を求めています。

再発防止に向けた提言と、研修

センターの研修受講者の累計管理者・実務者セミナー8,566 名(10 年)センター主催研修7,582 名(5 年)支援団体統括者セミナー1,226 名(9 年)2029 年 4 月からの義務これらの研修が受け皿

センターは、集まった院内調査の報告書を分析し、「医療事故の再発防止に向けた提言」を公表しています。
2017 年 3 月の第 1 号(中心静脈穿刺合併症)から、2026 年 8 月の第 22 号(入院早期に発生した食物による窒息)まで 22 本です。
転倒・転落による頭部外傷(第 9 号)、薬剤の誤投与(第 15 号)、血液検査パニック値(第 20 号)、産科危機的出血(第 21 号)など、第 5 章の重大事象と重なるテーマが多くあります。
提言と並んで「警鐘レポート」も公表されています(再発防止に向けた提言(日本医療安全調査機構))。

センターの研修も、業務の 1 つです。
管理者・実務者セミナー(日本医師会主催)は 10 年の累計で 8,566 名が受講し、2024 年度は 1,037 名のうち 281 名が医療機関の管理者でした。
センター主催の研修は 5 年で 7,582 名、支援団体統括者セミナーは 9 年で 1,226 名です(医療事故調査・支援センターにおける業務運営 10 年の検証 報告書(日本医療安全調査機構PDF)27 ページ)。
2029 年 4 月からの研修の義務(第 2 章)は、これらの研修が受け皿になります。

制度 10 年の検証

制度の施行から 10 年にあたる 2025 年は、2 つの検証が行われました。
1 つは厚生労働省の検討会(報告書は 2025 年 12 月 22 日)で、2026 年 4 月の省令改正につながりました。
もう 1 つは機構が設けた「医療安全の更なる向上を目指す検討会」で、2024 年 10 月から 2025 年 12 月に 7 回開かれ、12 月 23 日に「医療事故調査・支援センターにおける業務運営 10 年の検証 報告書」をまとめました。
構成員には患者団体と弁護士も入っています。

  • 判断の支援 センター合議の議論を整理し、管理者の参考になる情報を提供する。
    伝達と合議の事例の実態を把握する。
  • 院内調査の支援 研修を実践的にし、調査の経験の無い医療機関を支援する。
    院内調査報告書の参考様式を改訂する。
  • 病理解剖 院内調査での病理解剖は 2018 年の 120 件(33.2%)から 2024 年の 75 件(22.8%)に減った。
    有効性を分析して発信し、遺族への説明を支援する。
  • 提言の活用 すべての院内調査報告書を対象に分析の課題を抽出する。
    提言の活用状況の調査を続け、活用した事例を集める仕組みを作る。
  • センター調査 期間の短縮を進める。
    調査と報告書作成のマニュアルの提示は厚生労働省の方針を踏まえる。
  • 国民への周知 医療安全支援センター(第 7 章)と連携した周知を検討する。

厚生労働省の検討会も、センター調査の透明性の向上(マニュアルと架空事例報告書の提示)、センター調査の報告書の公表のさらなる検討、ワーキンググループでの継続的なフォローアップを求めています。
センターの仕組みは、この先も動きます。
講座は、報告書と年報が出るたびにこの章を直します。

自院で確かめること

  • 自院の都道府県の支援団体の窓口(都道府県医師会の協議会など)と、センターの相談窓口の連絡先を知っていて、指針に書いてあるか。
  • 判断に迷ったときにセンター合議を使えることを、管理者と医療安全管理者が知っているか。
  • 管理者(または判断に携わる者)が制度の研修を受けているか。
    受講歴が 2026 年 4 月より前のものなら、内容が確認できる資料を残しているか。

制度の 10 年は、数字でも読めます。
第 4 章で、年報の数字から報告の実態を見ます。

この章の一次資料

  • 医療法 第 6 条の 11、第 6 条の 15〜第 6 条の 27(e-Gov 法令)、医療法施行規則 第 1 条の 10 の 5(e-Gov 法令)
  • 医療事故調査・支援センター 2025 年 年報 2026 年 3 月。
    要約版 5〜8 ページ、13 ページ、25 ページ(日本医療安全調査機構)
  • 医療事故調査・支援センターにおける業務運営 10 年の検証 報告書 医療安全の更なる向上を目指す検討会 2025 年 12 月 23 日(日本医療安全調査機構PDF)
  • 医療事故の再発防止に向けた提言(日本医療安全調査機構)、医療事故調査制度に関する研修(日本医療安全調査機構)
  • 医療法第 6 条の 11 第 2 項の規定に基づき厚生労働大臣が定める団体 令和 4 年 12 月 7 日 厚生労働省告示第 350 号(厚生労働省PDF)、医療事故調査制度に関する Q&A Q15(厚生労働省)
  • 医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書 2025 年 12 月 22 日。
    8〜14 ページ、17〜19 ページ(厚生労働省PDF)

制度や数値は掲載時点の情報です。最新の内容は所管の原文でご確認ください。 個別の事案への対応は事情で異なります。判断に迷うときは、都道府県の医療事故調査等支援団体か医療事故調査・支援センターへご相談ください。 内容の誤りは訂正受付窓口からお知らせください。