第4章 医療事故調査制度の 10 年を数字で読む
医療事故調査制度は、年にどのくらい使われているのでしょうか。
自院の規模の病院は、どのくらい報告しているのでしょうか。
医療事故調査・支援センターは毎年 3 月に年報を公表し、制度開始からの数字を集計しています。
この章では、2025 年の年報から、発生報告の件数、病院の規模による差、起因した医療、院内調査、センター調査の数字を読みます。
数字は「報告の実績」であって「安全の差」ではない、という読み方も、年報の言葉のとおりに書きます。
年に 300〜400 件、95% が病院
医療事故の発生報告は、制度が始まった 2015 年 10 月から 12 月の 3 か月で 81 件、翌 2016 年に 406 件でした。
その後は年 300〜400 件で推移し、2025 年は 375 件、累計は 3,633 件です。
出典: 医療事故調査・支援センター 2025 年 年報 数値版 2-(1)-①(日本医療安全調査機構PDF)
- 2025 年の発生報告375件前年は 349 件
- 累計(2015 年 10 月〜2025 年 12 月)3,633件病院 3,451、診療所 181、助産所 1
- 人口 100 万人あたり2.9件/年累計の 1 年換算。
都道府県で差がある
2025 年の 375 件のうち病院からの報告は 356 件、診療所は 19 件、助産所は 0 件です。
累計でも 95% が病院で、制度は実質的に病院の制度だと分かります(年報 数値版 2-(1)-②)。
人口 100 万人あたりの件数には都道府県で差があり、検討会では人口で補正した都道府県別の件数のばらつきが、判断の質の論点として挙がりました。
病院の 8 割に、報告の実績が無い
年報は、制度開始から 2025 年末までに 1 回でも医療事故を報告したことがあるかを、病床規模別に集計しています。
分母は令和 6 年の医療施設調査の施設数です。
出典: 医療事故調査・支援センター 2025 年 年報 要約版 10 ページ(日本医療安全調査機構)。
施設数は令和 6 年医療施設(動態)調査
病院 8,060 施設のうち、報告実績があるのは 1,508 施設、18.7% です。
900 床以上の 49 施設では 92% に実績があり、そのうち 41 施設は複数回報告しています。
一方、20〜99 床の 2,889 施設では実績があるのは 5.2% で、100〜199 床の 2,773 施設でも 12.7% です。
年報の言葉は「病床規模数の大きな施設ほど、高い報告実績率を示している」です。
特定機能病院 88 のうち、報告実績が無いのは 2 病院だけでした。
この差をどう読むかには注意が要ります。
年報はこの数字を「報告実績」と呼んでいて、事故の多さを示すものではありません。
大きい病院ほど手術や侵襲的な処置が多く、入院患者も多いので、医療に起因する予期しなかった死亡が起きる機会は多くなります。
同時に、小さい病院では死亡事例を振り返る仕組みや判断に携わる人が限られ、該当する事例が報告に至っていない可能性も、検討会で指摘されました(医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書(厚生労働省PDF)9〜10 ページ)。
2026 年 4 月からの判断のプロセスの指針への明記(第 2 章)は、この後者の可能性に対する国の答えです。
講座も、報告の多い病院が危ない、報告の無い病院が安全だ、とは読みません。
自院の規模の病院の報告実績率を知り、自院の死亡事例の振り返りの仕組みを点検することが、この数字の使い方です。
起因した医療は、有床では手術が約半数
報告された医療事故が何に起因したか(疑いを含む)を、年報は厚生労働省の通知の分類で集計しています。
有床の医療機関では、どの病床規模でも「手術(分娩を含む)」が約半数を占めます。
無床の診療所では「投薬・注射(輸血を含む)」が 30.0% で最多です(年報 要約版 20-2)。
センター合議の累計でも、「報告を推奨」と助言した事例の分類は「手術(分娩を含む)」が 179 件で最も多く、報告された割合は 72.6% でした。
「徴候、症状」は 48 件で 81.3%、「処置」は 47 件で 78.7% です(年報の概要)。
手術と処置に関わる死亡は、報告に至りやすいテーマだと言えます。
この分布は、第 5 章の重大事象の別表と重なります。
別表 1 の手術の取り違えと異物遺残、別表 2 の術中心停止や大量出血は、報告書の分析が元になっているからです。
院内調査の 360 件と、解剖の減少
院内調査の結果報告は 2025 年に 360 件で、前年の 329 件から増えました。
発生報告と結果報告の累計はほぼ比例して推移しています。
報告書のページ数は 10〜12 ページが最も多く 15.3% でした。
機構の 10 年の検証によると、院内調査での解剖は 2018 年の 144 件(結果報告の 39.9%)をピークに減り、2024 年は 114 件(34.7%)でした。
病理解剖に限ると 120 件(33.2%)から 75 件(22.8%)です。
解剖しなかった理由の最多は「病理解剖について説明したが同意を得られなかった」で 58.9% でした。
全国の病理解剖数そのものが 1980 年代の約 4 万件から 2022 年度は 6,545 件に減っていて、病理の専攻医も年々減っています(医療事故調査・支援センターにおける業務運営 10 年の検証 報告書(日本医療安全調査機構PDF)12〜13 ページ)。
センターは、遺族への説明を支援する資料「病理解剖について」を配布し、病理解剖の意義を発信するとしています。
自院で解剖ができない病院は、支援団体と協議会の調整で他の施設で行う道があります。
センター調査の 876 日
センター調査は、累計で発生報告の 8.6%(314 件)が対象になり、報告書の交付は 225 件です。
依頼者は遺族が多く、2025 年の 41 件のうち 28 件(68.3%)が遺族からでした。
2016 年以降、どの年も遺族からの依頼が 6〜9 割を占めています。
出典: 医療事故調査・支援センター 2025 年 年報 要約版 25 ページ(日本医療安全調査機構)
2025 年に報告書を交付した 37 件では、申請から交付まで平均 876.5 日でした。
2024 年は 854.5 日、交付した 225 件の全体では 910.1 日です。
工程別に見ると、個別調査部会の設置までの手続きが 158.8 日、部会の検討と報告書案の作成が 648.4 日、総合調査委員会の審議が 69.2 日で、審議の期間は 2021 年の 237.3 日から大きく短くなっています。
センター調査は原則として院内調査の結果報告を受けてから始まるので、遺族が依頼してから結果を知るまでには、院内調査の期間がさらに加わります。
この長さは、検討会でも機構の検証でも課題に挙がりました。
機構は期間の短縮を進めるとし、厚生労働省の検討会はセンター調査の手法を外から分かるようにするためのマニュアルと架空事例報告書の提示を求めています(第 3 章)。
自院で確かめること
- 自院が制度開始からこれまでに医療事故として報告した件数と、その記録の所在を知っているか。
- 自院と同じ病床規模の病院の報告実績率(図 4-2)を知っているか。
自院の死亡事例の数と、振り返りの頻度を把握しているか。 - 院内調査を行うときの外部委員と解剖の手配先(支援団体、協議会)を決めているか。
死亡に至らない事象も含めて、院内で何を把握し、どう報告するか。
第 5 章で、2026 年 2 月の通知が示した 24 の重大事象と、報告して学ぶ仕組みを見ます。
この章の一次資料
- 医療事故調査・支援センター 2025 年 年報 2026 年 3 月。
要約版 5〜13 ページ、19〜25 ページ、数値版 2-(1)(日本医療安全調査機構) - 医療事故調査・支援センターにおける業務運営 10 年の検証 報告書 2025 年 12 月 23 日。
12〜14 ページ(日本医療安全調査機構PDF) - 医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書 2025 年 12 月 22 日。
9〜10 ページ(厚生労働省PDF)
制度や数値は掲載時点の情報です。最新の内容は所管の原文でご確認ください。 個別の事案への対応は事情で異なります。判断に迷うときは、都道府県の医療事故調査等支援団体か医療事故調査・支援センターへご相談ください。 内容の誤りは訂正受付窓口からお知らせください。