第2章 国の役割
国は、医療のどこを決め、病院に何をしているのでしょうか。
この章では、厚生労働大臣の役割と、その窓口である地方厚生局の仕事を、保険医療機関の指定、施設基準の届出、適時調査と指導の順に見ます。
厚生労働大臣が決めること
医療法と健康保険法で、厚生労働大臣が決めることは主に 4 つです。
- 基本方針医療提供体制の確保を図るための基本方針を定めます。
都道府県の医療計画は、これに即して作ります。医療法 第 30 条の 3 - 診療報酬療養の給付の費用の額を定めます。
定めるときは中央社会保険医療協議会に諮問します。健康保険法 第 76 条、第 82 条 - 保険医療機関の指定病院が保険の診療をするには、厚生労働大臣の指定が要ります。健康保険法 第 63 条、第 65 条
- 特定機能病院の承認高度の医療を担う病院を承認します。
地域医療支援病院の承認は都道府県知事です(医療法 第 4 条)。医療法 第 4 条の 2
健康保険法は、厚生労働大臣の権限を地方厚生局長に任せることができるとしています(健康保険法 第 205 条(e-Gov 法令))。
病院から見ると、保険のことの窓口は地方厚生局です。
診療報酬の決まり方
診療報酬は、3 つの段階で決まります。
まず予算の編成の中で内閣が改定率を決め、次に社会保障審議会の医療保険部会と医療部会が改定の基本方針を作り、最後に中央社会保険医療協議会(中医協)が点数を審議します。
中医協は、支払側、診療側、公益の代表の三者で構成されています。
令和 8 年度の改定は、次の順に進みました。
- 2025 年 12 月 9 日改定の基本方針
- 2025 年 12 月 24 日大臣折衝(改定率)
- 2026 年 1 月 14 日中医協に諮問
- 2026 年 2 月 13 日中医協が答申
- 2026 年 3 月 5 日告示と通知
- 2026 年 6 月 1 日適用
出典: 令和 8 年度診療報酬改定について(厚生労働省)
近年の改定は 2 年ごとで、令和 8 年度の改定は 6 月 1 日から適用されました。
審議会の仕組みはコラム「社会保障審議会と中央社会保険医療協議会」で、今の議論は「厚生労働省の政策の動き」で見られます。
地方厚生局は、全国に 7 つと 1 つの支局
地方厚生(支)局は、厚生労働省の地方の機関です。
北海道、東北、関東信越、東海北陸、近畿、中国四国、九州の 7 つの厚生局と、四国厚生支局があります。
関東信越厚生局は、自らを「地域における国の『政策実施機関』」と説明しています。
| 厚生局 | 置かれている所 | 管轄の都道府県 |
|---|---|---|
| 北海道厚生局 | 札幌市 | 北海道 |
| 東北厚生局 | 仙台市 | 青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島 |
| 関東信越厚生局 | さいたま市 | 茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、山梨、長野 |
| 東海北陸厚生局 | 名古屋市 | 富山、石川、岐阜、静岡、愛知、三重 |
| 近畿厚生局 | 大阪市 | 福井、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山 |
| 中国四国厚生局 | 広島市 | 鳥取、島根、岡山、広島、山口 |
| 四国厚生支局 | 高松市 | 徳島、香川、愛媛、高知 |
| 九州厚生局 | 福岡市 | 福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 |
出典: 厚生労働省組織令 第 152 条、第 154 条(e-Gov 法令)、地方厚生(支)局(厚生労働省)。
組織令の表では中国四国厚生局の管轄に四国の 4 県も入り、そのうち 4 県を四国厚生支局が受け持つ
厚生局は、都道府県ごとの事務所で、保険医療機関の指定と保険医の登録、施設基準の届出の受理と調査、保険医療機関への指導と監督をしています。
関東信越厚生局は「各種の申請・届出は、保険医療機関等が所在する都道府県を管轄する事務所…に提出してください」と案内しています。
厚生局のある県(埼玉、宮城、愛知、大阪、広島、香川、福岡)では、本局の課が窓口です。
なお、国民健康保険、共済組合、後期高齢者医療は、厚生局の所管ではありません。
保険医療機関の指定は、開設の後
病院を開いただけでは、保険の診療はできません。
開設者が地方厚生局長の指定を受けて、はじめて保険医療機関になります。
出典: 保険医療機関・保険薬局の指定申請手続きの流れ(関東信越厚生局)、健康保険法 第 65 条、第 68 条、第 82 条
関東信越厚生局は手順を「保健所へ開設に関する届出又は開設申請を行います」「保健所から使用許可証・許可書等が発行されます」「都県の各事務所…に保険医療機関・保険薬局指定申請書及び添付書類を提出してください」の順に案内しています。
医療法の手続きが先で、健康保険法の指定が後です。
指定は、指定の日から 6 年で効力を失います(健康保険法 第 68 条)。
病院は自動では更新されないので、厚生局から届く案内に沿って更新の手続きをします。
病床を増やすときや種別を変えるときは指定の変更の申請、名前や管理者や診療科を変えたときは届出事項の変更の届が要ります。
2026 年 4 月からは、保険医療機関の管理者に要件が加わりました(健康保険法 第 70 条の 2)。
臨床研修を終えたあと、病院で保険医として 3 年以上診療した経験などが要ります。
2026 年 4 月 1 日の時点で管理者だった人は、同じ保険医療機関の管理者である限り、3 年間は引き続き管理者でいられます(保険医療機関の管理者の要件・責務について(厚生労働省))。
施設基準の届出と、毎年 8 月の定例報告
診療報酬の中には、人員や設備などの基準(施設基準)を満たして届け出た病院だけが算定できるものがあります。
届出の相手は、所在地の地方厚生(支)局長です。
通知は次のように定めています。
各月の末日までに要件審査を終え、届出を受理した場合は、翌月の1日から当該届出に係る診療報酬を算定する。
基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて 令和 8 年 3 月 5 日 保医発 0305 第 7 号 第 2 の 7(厚生労働省PDF)
要件の審査は、原則 2 週間以内が標準で、遅くとも概ね 1 か月以内とされています。
届出には、特に定めのある場合を除き、届出の前 1 か月の実績が要ります。
要件を満たさなくなったときは、遅滞なく変更の届出をします。
届け出た病院は、毎年 8 月 1 日現在で要件を満たしているかを確かめて報告します(定例報告)。
適時調査の実施要領は、8 月 31 日までに報告するよう求めることにしています。
受理された届出は、各厚生局のサイトの「届出受理医療機関名簿」で公開され、都道府県にも伝えられます。
特掲診療料の届出も同じ趣旨の通知(厚生労働省PDF)によります。
施設基準の中身はコラム「診療報酬と施設基準」で、病院ごとの届出の一覧は病院ドックの施設基準のページで見られます。
適時調査は、届出の内容と実態を確かめるもの
届出を受理した病院には、厚生局が出向いて確かめる適時調査があります。
通知は「届出の内容と異なる事情等がある場合には、届出の受理の変更を行うなど運用の適正を期する」ためと書いています。
対象は当分の間、原則として病院です。
- 頻度原則は年 1 回、受理後 6 か月以内を目途。
当分の間は、対象の病院が 300 以上の都道府県で 4 年に 1 巡、150 以上 300 未満で 3 年に 1 巡、150 未満で 2 年に 1 巡を目途に行います。 - 当日調査日の 1 か月前を目途に通知が届き、事前の書類は 10 日前までに出します。
保険指導看護師 1 名と事務官など 2 名の 3 名以内で、概ね半日(約 3 時間)以内が標準です。
院内を見て、書類を見ながら話を聞き、最後に口頭で講評があります。 - 結果概ね 1 か月以内に文書で届きます。
指摘は「改善事項」と「返還事項」に分かれ、改善報告書は通知の 1 か月後が期限です。
出典: 適時調査実施要領 令和 8 年 6 月 5 日改正(厚生労働省PDF)。
当日の体制と時間は、施設基準が 24 までの病院の標準
令和 6 年度の適時調査は 2,729 件で、うち医科が 2,722 件でした。
指導は「懇切丁寧に」、監査は疑いがあるとき
保険医療機関は、療養の給付について厚生労働大臣の指導を受けなければなりません(健康保険法 第 73 条)。
ここでは、指導と監査の違いを見ます。
指導の目的と方針を、国の指導大綱は次のように書いています。
保険診療の質的向上及び適正化を図ることを目的とする。
保険診療の取扱い、診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼とし、懇切丁寧に行う。
指導大綱 第 1、第 2(厚生労働省PDF)
- 集団指導一定の場所に集めて、講習の形で行います。
新しく指定された保険医療機関は、概ね 1 年以内にすべてが対象です。 - 集団的個別指導一定の場所に集めて、個別に簡便な面接で行います。
レセプト 1 件あたりの平均点数が高い順に選ばれます。
令和 6 年度は 15,506 件。 - 個別指導個別に面接で行います。
令和 6 年度は 2,494 件(うち医科 894 件)。 - 監査(指導とは別)診療の内容や請求に「不正又は著しい不当が疑われる場合等」に、事実を確かめて措置をとります。
令和 6 年度は 34 件。
指導は地方厚生(支)局と都道府県が共同で行う。
件数は保険医療機関と保険薬局などの合計。
出典: 指導大綱、監査要綱(厚生労働省PDF)、令和 6 年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について(厚生労働省)
指導は、指定されたすべての保険医療機関が対象になりえます。
個別指導のあとは、「概ね妥当」「経過観察」「再指導」「要監査」の 4 つのいずれかになります。
監査は指導とは目的が別で、事実を確かめて公正な措置をとることを主眼にしています。
保険診療の決まりは、集団指導の資料の保険診療の理解のために【医科】(厚生労働省PDF)にまとまっています。
自院で確かめること
- 保険医療機関の指定の日と、6 年ごとの更新の時期。
更新の案内の文書を院内のだれが受け取るか。 - 毎年 8 月の定例報告で、届け出ている施設基準ごとに、要件を確かめる担当と資料が決まっているか。
- 地方厚生局の届出受理医療機関名簿の自院の行(施設基準、受理番号、算定開始の日)が、院内の控えと合っているか。
この章の一次資料
- 医療法 第 4 条、第 4 条の 2、第 30 条の 3(e-Gov 法令)
- 健康保険法 第 63 条、第 65 条、第 68 条、第 70 条の 2、第 73 条、第 76 条、第 78 条、第 82 条、第 205 条(e-Gov 法令)
- 厚生労働省組織令 第 152 条、第 154 条(e-Gov 法令)
- 基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて 令和 8 年 3 月 5 日 保医発 0305 第 7 号(厚生労働省PDF)。
特掲診療料は同 第 8 号(厚生労働省PDF) - 適時調査実施要領 令和 8 年 6 月 5 日改正(厚生労働省PDF)
- 指導大綱、監査要綱(厚生労働省PDF)、保険診療における指導・監査(厚生労働省)
- 令和 6 年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について 2026 年 1 月 29 日(厚生労働省)
- 令和 8 年度診療報酬改定について(厚生労働省)
- 保険医療機関・保険薬局の指定申請手続きの流れ(関東信越厚生局)
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