第2章 社会保険はどこから来たか
社会保険は、19 世紀の終わりのドイツで生まれました。
この章では、ドイツの疾病保険法から、英国のベヴァリッジ報告と NHS、アメリカと韓国、そして日本の健康保険法から 1961 年の国民皆保険までを、国の資料の年でたどります。
この章の年
- ドイツの疾病保険法1883年世界初の社会保険
- 英国のベヴァリッジ報告1942年社会保険を主な手段に
- 日本の勧告1950年社会保障の中心を社会保険に
- 日本の国民皆保険1961年4 月から
平成 23 年版、平成 24 年版 厚生労働白書、社会保障制度に関する勧告
スウェーデンの医療の制度が始まった年は、国の資料で確かめられなかったので載せていない。
出典: 平成 19 年版、平成 23 年版、平成 24 年版 厚生労働白書、2025 年 海外情勢報告(厚生労働省)、世界の厚生労働 2011(厚生労働省PDF)
世界初の社会保険は、ドイツ
世界初の社会保険は、ドイツで誕生した。当時のドイツでは、資本主義経済の発達に伴って深刻化した労働問題や労働運動に対処するため、1883(明治 16)年に医療保険に相当する疾病保険法、翌 1884(明治 17)年には労災保険に相当する災害保険法を公布した。
平成 23 年版 厚生労働白書 第 1 部 第 2 章 印字 35 頁(厚生労働省PDF)
ドイツの疾病保険は、もともとあった職員や労働者の共済組合を保険者にして作られました(厚生労働省PDF)。
今のドイツの保険者である疾病金庫は、ここから来ています(第 3 章)。
白書は、社会保険が多くの国に広がった理由を、次のように説明しています。
社会保険制度は、事業主の負担と併せて被保険者(労働者等)自ら保険料を負担(拠出)することにより給付の権利を獲得するという関係があるため市場整合的であるとして、多くの工業国で社会保障の手法として第一義的に選好される傾向が強いものとなっていった。
平成 24 年版 厚生労働白書 第 1 部 第 1 章 印字 6 頁(厚生労働省PDF)
英国は、ベヴァリッジ報告から NHS へ
戦後の英国は、医療を社会保険とは別の形にしました。
1946 年の国民保健サービス法にもとづき、1948 年に国民保健サービス(NHS)が作られました(厚生労働省PDF)。
海外情勢報告は、NHS を「税金を財源とする 1948 年に創設された国営の国民保健サービス(NHS)」と書いています(厚生労働省PDF)。
英国が税の方式の国になったのは、このときからです。
フランスでは、第二次世界大戦後の 1945 年に、ベヴァリッジ報告の影響を受けて、民間の労働者を対象とする社会保障の制度が整えられました(世界の厚生労働 2011(厚生労働省PDF))。
アメリカと韓国
アメリカでは、1935 年に社会保障法が作られました(厚生労働省PDF)。
医療では、1965 年に高齢者と障害者のためのメディケアと、低所得者のためのメディケイドが作られました。
白書は、アメリカを「自己責任の伝統が強く、公的な社会保障は必ずしも発達しなかった」国と書いたうえで、1965 年の 2 つの制度の創設を書いています(厚生労働省PDF)。
2010 年には医療制度改革法(ACA)が成立し、個人は一定の医療保険への加入を義務づけられました(厚生労働省PDF)。
韓国では、1963 年に医療保険法が作られましたが、当時は任意で加入する方式でした。
1977 年に大きな事業所の職場の医療保険が強制加入になり、1989 年に地域の医療保険が入って、同年 7 月 1 日から国民皆保険になりました(厚生労働省PDF)。
日本は、健康保険法から
日本は、ドイツにならって労働者の疾病保険を検討し、1922 年に健康保険法を作りました。
しかしながら、その翌年に関東大震災が発生したことから、法施行は 1927(昭和 2)年まで延期された。
平成 23 年版 厚生労働白書 第 1 部 第 2 章 印字 36 頁(厚生労働省PDF)
1938 年には国民健康保険法が作られ、同じ年の 7 月に施行されました。
白書は、国民健康保険を「先進国に前例のある被用者保険と異なり、日本特有の地域保険としての性格を有していた。」と書いています(厚生労働省PDF)。
働く場所で入る保険(職域保険)に加えて、住む場所で入る保険(地域保険)を持ったことが、のちの皆保険の土台になりました。
1950 年の勧告は、社会保険を中心に
戦後の 1950 年、社会保障制度審議会は「社会保障制度に関する勧告」を出しました。
勧告は、社会保障の中心を社会保険にすると書いています。
社会保障の中心をなすものは自らをしてそれに必要な経費を醵出せしめるところの社会保険制度でなければならない。
社会保障制度に関する勧告 1950 年 10 月 16 日 総説 1(国立社会保障・人口問題研究所PDF)
白書は、この勧告がベヴァリッジ報告をふまえたものだと説明しています。
ベヴァリッジ報告が社会保険を主な手段にした理由を、白書は「資力調査があり、スティグマ(汚名)がつきまとう社会扶助よりも、一定の拠出を要件として普遍的な性格を持つ社会保険の方が自立した自由な個人にふさわしいと考えたからであった。」と書いています(厚生労働省PDF)。
1961 年、国民皆保険
1958 年に国民健康保険法が全面的に改正され、市町村は 1961 年までに国民健康保険を始めることになりました(厚生労働省PDF)。
こうして 1961 年 4 月、国民皆保険が実現しました(厚生労働省PDF)。
出典: 平成 19 年版 厚生労働白書 第 1 部 第 1 章 印字 14 頁(厚生労働省PDF)、平成 23 年版 第 1 部 第 2 章 印字 35〜36 頁、45 頁(厚生労働省PDF)
白書のコラムは、日本の皆保険の特徴を次のように書いています。
日本は世界で 4 番目に皆保険を、12 番目に皆年金を達成したとされているが、既存の職域の医療保険に新しい医療保険を追加する形で適用を全国民にまで拡大したのは、日本が最初であった。
平成 23 年版 厚生労働白書 第 1 部 第 2 章 コラム 印字 51 頁(厚生労働省PDF)
皆保険までの国内の歩みは、医療制度の歩み講座の第 2 章「皆保険まで」で詳しく解説しています。
次の章では、今の 6 か国の仕組みを、同じ項目で並べます。
この章の一次資料
- 平成 23 年版 厚生労働白書 第 1 部 第 2 章 社会保障制度の発展を振り返る(厚生労働省PDF) 印字 32 頁、35〜36 頁、40 頁、45 頁、51 頁
- 平成 24 年版 厚生労働白書 第 1 部 第 1 章 なぜ社会保障は重要か(厚生労働省PDF) 印字 6 頁、8〜9 頁
- 平成 19 年版 厚生労働白書 第 1 部 第 1 章 我が国の保健医療をめぐるこれまでの軌跡(厚生労働省PDF) 印字 14 頁
- 社会保障制度審議会 社会保障制度に関する勧告 1950 年 10 月 16 日(国立社会保障・人口問題研究所PDF) 総説 1〜3
- 2025 年 海外情勢報告 第 2 章 社会保障施策の概要と最近の動向(厚生労働省)(英国、ドイツ、アメリカ、韓国の節)
- 世界の厚生労働 2011(2009〜2010 年 海外情勢報告)特集 フランス(厚生労働省PDF) 印字 113 頁
制度や数値は掲載時点の情報です。最新の内容は所管の原文でご確認ください。 国の仕組みは厚生労働省の 2025 年 海外情勢報告、数字は OECD の Health at a Glance 2025 によります。国ごとに数字の年と定義が違います(各図の注を参照)。国の優劣を示すものではありません。 内容の誤りは訂正受付窓口からお知らせください。