第1章 医療を支える 3 つの型

執筆者/監修

病院ドック編集部

病院ドック運営(株式会社ウェブリク)

病院ドックを運営する株式会社ウェブリクの編集部が、病院の運営にかかわる制度と行政の仕組みを、公的資料をもとに要点をしぼって解説します。

一般の方の目線で医療を分かりやすく伝えることを目指しています。

病気やけがの医療には、お金がかかります。
その費用を社会でどう集め、どう払うかで、各国の仕組みは大きく 3 つの型に分けて説明されます。
この章では、3 つの型と、この講座で取り上げる 6 か国がどの型にあたるかを見ます。
あわせて、日本の社会保障の中で医療がどれくらいの大きさかを確かめます。

この章の数字

  • 取り上げる国6か国日本、ドイツ、フランス、英国、スウェーデン、アメリカ。参考に韓国
  • 日本の社会保険5つ健康保険、年金保険、労災保険、雇用保険、介護保険
  • 社会保障給付費135.5兆円2023 年度
  • うち医療33.6%45 兆 5,799 億円

社会保険の数は平成 24 年版 厚生労働白書、社会保障給付費は令和 5 年度 社会保障費用統計

3 つの型

図 1-1 3 つの型と 6 か国
社会保険の方式加入が法律で義務。保険料が財源の中心日本ドイツフランス韓国(参考)税の方式住民全員が対象。税が財源の中心英国スウェーデン民間保険が中心公的な保障は高齢者、障害者、低所得者などが対象アメリカ

韓国は第 4 章の数字の図の参考。
どの国も 1 つの型だけでできているわけではない(本文)。
出典: 平成 24 年版 厚生労働白書 第 1 部 第 3 章(厚生労働省PDF)、2025 年 海外情勢報告(厚生労働省)

平成 24 年版 厚生労働白書社会保険と税の方式社会保険の方式加入は法律で義務¥社会保険の財源保険料が中心税の方式租税を財源に給付白書の説明社会保険は給付の権利性が強い

1 つ目は社会保険の方式です。
白書は社会保険を「公的な社会保険制度では、法律等によって国民に加入が義務付けられるとともに、給付と負担の内容が決められる。」と説明しています(厚生労働省PDF)。
加入した人と事業主が保険料を払い、病気やけがのときに給付を受けます。

2 つ目は税の方式です。
白書は「税方式とは,保険料ではなく専ら租税を財源にして給付を行う仕組みであり、」と書いています。

2 つの違いについて、白書は次のように書いています。

社会保険方式は、保険料の拠出と保険給付が対価的な関係にあり、保険料負担の見返りに給付を受けるという点において、税方式の場合よりも,給付の権利性が強いといえる。

平成 24 年版 厚生労働白書 第 1 部 第 3 章 印字 39 頁(厚生労働省PDF)

3 つ目は、民間の保険が中心の形です。
国が全員を対象にした公的な医療の保障を持たず、多くの人が民間の医療保険に入ります。

6 か国は、どの型か

6 か国の型社会保険、税、民間社会保険の方式日本、ドイツ、フランス税の方式英国、スウェーデン民間保険が中心アメリカ参考韓国(社会保険の方式)

社会保険の方式の国は、日本、ドイツ、フランスです。
ドイツの社会保険の特徴として、海外情勢報告は「財政は税ではなく、その大部分が加入者の保険料によって賄われていること」などを挙げています(厚生労働省PDF)。
フランスは、職業ごとに強制加入の制度が分かれていて、民間の給与所得者などの一般制度で国民の 88% をカバーしています(厚生労働省PDF)。
参考に取り上げる韓国も、日本と同じく国民皆保険の社会保険の国です(厚生労働省PDF)。

税の方式の国は、英国とスウェーデンです。
英国の医療は、海外情勢報告の言葉で「税財源により原則無料でサービスを提供し、公的関与度の高い医療」です(厚生労働省PDF)。
スウェーデンは、広域自治体であるレギオンが医療機関を置いて運営し、費用は主にレギオンの税収でまかないます。
海外情勢報告は、スウェーデンの医療について「被保険者資格という概念はない(保険制度でない)。」と書いています(厚生労働省PDF)。

民間保険が中心の国は、アメリカです。

年金分野は、広く国民一般をカバーする社会保障年金制度が存在するが、医療分野には、こうした制度は存在せず、公的な医療保障の対象は高齢者、障害者、低所得者等に限定されている。

2025 年 海外情勢報告 アメリカ p.1(厚生労働省PDF)

ただし、どの国も 1 つの型だけでできているわけではありません。
日本は社会保険の方式を基本にしながら、税(公費)も入れています(厚生労働省PDF)。
英国の医療は税が中心ですが、国民保険料の一部(2 割程度)も NHS に回っています(厚生労働省PDF)。
アメリカでは、2010 年の医療制度改革法(ACA)で、個人は一定の医療保険への加入を義務づけられています(厚生労働省PDF)。
第 3 章で、6 か国の仕組みを同じ項目で並べます。

日本の 5 つの社会保険

日本の社会保険5 つの社会保険医療保険(健康保険)病気やけが年金保険老齢、障害、死亡労災保険仕事上の病気やけが雇用保険失業介護保険介護が必要になったとき

日本の社会保険について、白書は「現在の日本の社会保険は、健康保険、年金保険、労災保険、雇用保険、介護保険の 5 つである。」と書いています(厚生労働省PDF)。
この講座は、このうちの医療保険を中心に扱います。
介護保険は第 5 章で、ドイツと韓国と比べます。
年金は扱いません。

日本の医療保険の保険者と保険料のしくみは、医療費の見える化講座の第 2 章「保険料はどこへ払っているのか」で解説しています。

社会保障の中の医療

社会保障の給付の全体は、国立社会保障・人口問題研究所の社会保障費用統計で分かります。
2023 年度の社会保障給付費は 135 兆 4,928 億円でした(国立社会保障・人口問題研究所PDF)。

図 1-2 社会保障給付費の部門別(2023 年度)。医療は 33.6%
総額 135 兆 4,928 億円(2023 年度)年金41.6%56 兆 3,936 億円医療33.6%45 兆 5,799 億円福祉その他24.7%33 兆 5,192 億円医療には医療保険、公費負担医療、公衆衛生を含む。介護保険は福祉その他

ILO 基準。
医療には医療保険、公費負担医療、公衆衛生(感染症対策、健診など)を含む。
介護保険は福祉その他に入る。
出典: 令和 5 年度 社会保障費用統計 報道発表の概要 -4-、-5-(国立社会保障・人口問題研究所PDF)

医療は、年金に次いで大きな部門です。
国際比較には、OECD の基準の「社会支出」が使われます。
同じ統計は、2021 年度の社会支出の GDP に対する割合を比べて、「日本は、フランス、ドイツ、アメリカ、スウェーデンと比較して小さくなっている」と書いています(国立社会保障・人口問題研究所PDF)。

図 1-3 社会支出の GDP に対する割合と、うち保健(2021 年度)
0%5%10%15%20%25%30%35%社会支出の合計うち保健フランス33.4910.42ドイツ31.2710.83アメリカ27.0314.79スウェーデン26.926.95日本25.7910.91英国(参考値)24.969.80

英国は一部の項目の値が公表されていないため参考値。
社会支出(OECD 基準)は、社会保障給付費(ILO 基準)と比べて、施設整備費など直接個人には帰着されない支出まで含む。
諸外国は OECD Social Expenditure Database(2025 年 5 月 12 日時点)。
出典: 令和 5 年度 社会保障費用統計 報道発表の概要 -8- 図 3(国立社会保障・人口問題研究所PDF)、第 7 表(国立社会保障・人口問題研究所)

社会支出のうち保健の割合は、日本はドイツやフランスと近い値です。
アメリカは社会支出の合計が日本より大きく、保健も 6 か国で最も大きい値でした。

次の章では、社会保険がどこで生まれ、日本がなぜ社会保険の方式を選んだのかを見ます。

この章の一次資料

制度や数値は掲載時点の情報です。最新の内容は所管の原文でご確認ください。 国の仕組みは厚生労働省の 2025 年 海外情勢報告、数字は OECD の Health at a Glance 2025 によります。国ごとに数字の年と定義が違います(各図の注を参照)。国の優劣を示すものではありません。 内容の誤りは訂正受付窓口からお知らせください。